第30話 俺はJSをデートに誘わないといけない
聖奈が歩けるくらい落ち着きを取り戻して、店の外に出る頃には、もう辺りは真っ暗になっていた。
聖奈はまだ落ち込んだままだ。
「丘崎さんが……丘崎さんが……聖奈のことを好きじゃ……ない……?」
大きな胸が重力に負けているような前傾姿勢のままトボトボ歩く聖奈を、黙って見ているのは心苦しかった。
『バンジャマン』の姿が見えなくなってきたあたりで、俺は、思っていたことを伝えることにした。
「なあ聖奈」
「……なんですか? 結婚詐欺をしようとした丘崎さん?」
「聞いてくれ」
「丘崎さんが見ていたのは、聖奈の家のお金だけだったんですね」
「ちゃんと聖奈のことを見てるさ。金のことは関係ない」
「ほんとうですか? 聖奈のホームシアターと『ポリ・キュアー』グッズをいつでもずっと楽しめるから聖奈と結婚するってウソついてたんですよね? 聖奈はおまけなんだ」
「いくらなんでも聖奈の方が大事だぞ」
「あの丘崎さんが『ポリ・キュアー』よりも聖奈を……!?」
聖奈は驚愕の表情を浮かべて振り向いた。
俺、どれだけ『ポリ・キュアー』好きと思われてるんですかね?
「え、えー? じゃあ丘崎さんはぁ、やっぱり一生をそいとげたいくらい聖奈に夢中なんですかぁ?」
今までのこの世の終わりみたいな落ちみようはなんだったのかと思いたくなる勢いで復活した聖奈は、俺の背後に周りこんで例のムーヴをした。後頭部に押し当てる巨乳枕攻撃である。やめてくれねえかな、それ。聖奈は俺を抱えながらなせいで歩きにくいだろうし、俺だって諸事情で歩きにくくなっちゃう……。
どうやら聖奈は、瞳を暗黒色にして闇落ちするのも早いけれど、そこから立ち直るのも早いみたいだ。
まあでも、これならかえって好都合。
込み入った話を切り出すなら、聖奈が上機嫌な今しかない。
「聖奈、提案なんだけど……今度の週末、公園の代わり探しとかじゃなくて、もっとちゃんとしたかたちで二人で出かけないか?」
返事がなかった。
しまった。流石に聖奈を甘く見すぎていたか。聖奈を傷つけるようなことを言ってしまったのはほんの少し前のことだ。バカにされていると感じてしまうかもしれない。
返事よりも先に、俺を抱えていた聖奈の腕に力が入った。
俺は、聖奈の手によって、いっそう母なる乳のもとへ引き寄せられてしまう。後頭部が胸に埋まっていく……。俺、聖奈に吸収されちゃうの?
「いいですね、それ」
俺を吸収して聖奈完全体になることはなかった聖奈が言う。
「行きましょう! 披露宴の会場とドレスの下見に!」
「いや、そのもうちょい前段階な」
「じゃあ……二人きりのはじめてのお泊りです……か?」
「生唾飲み込みながら言うんじゃないよ」
ていうか意味わかって言ってんのかよ……。
「デートしないかって言ってるんだよ」
「デェェェェ!」
奇声を発したと思ったら、聖奈が回り込んで切羽詰まった表情で俺の顔を覗き込んでいた。
「マジモンですか、丘崎さん!」
「そらマジモンよ」
「帰ったらお母さんにいっぱいアドバイスもらわなきゃ!」
「よし、当日はデートの前に母親からどんないらんこと吹き込まれたのか教えてくれな。俺企画のデートにはコンプライアンスがあるんだ」
きっとろくでもないことを吹き込むのだろうから。
わかっているのかいないのか、聖奈は、「はぁい!」と元気に返事をして。
「なに着ていこう!」
聖奈はぴょんと飛び上がり、同時に、ぶるんっ、と震わせて喜んだ。
ほんの少し前まで、この世の終わりみたいに落ち込んでいたのがウソみたいだった。
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