第17話 異世界勇者と決闘
「えーっと、ルールを改めて確認しますが、相手を殺してしまうような殺傷能力の高い攻撃は禁止となりますが……本当にこれだけでよろしいので?」
「いいよー」
「正直、イネ様が不利になるルールにしか思えませんが……」
「ここまで来てまだ舐めプをするのかよ……ふざけやがって」
色々準備を終えてから、1度は襲撃を受けて崩落した体育館もどきをスタジアムに改築した建物で、こちらはベースキャンプにいる面々が、ヒロ君側は彼のPTメンバー全員を見学人としてイネちゃんとヒロ君の決闘が始まろうとしていた。
今は装備とルールの最終確認で、殺傷能力の高い攻撃……つまりはイネちゃんの主力武装である銃関係が軒並みと言っていいレベルで禁止状態。
刃物に関しては峰打ちか鞘から抜かなければ問題なく使用可能なルールで、一応安全には配慮したつもりではある。
最も、ヒロ君側がルール違反をしてくれたらこちらも鏡対応させてもらうけどね。
「それでは両者前へ」
スーさんのあまりやる気を感じられない誘導に毒を抜かれつつもあらかじめルールとして定めておいた立ち位置に移動して一礼すると、ヒロ君側は礼すらせずにらめつけてきていた。
別に礼をしなきゃいけないルールはないので問題なくスーさんが2人の状況を確認して合図の号令を出す。
「始め!」
「勝ちは貰った!タイムストップ!」
ヒロ君がそう叫んだとき、この場にいる大陸出身者は全員こう思ったことだろう……あぁ終わったなって。
確かにタイムストップを叫んだヒロ君からは魔力の波を感じることはできたけれど、大陸の人間はもれなくヌーリエ様の加護の影響でこの手のデバフに該当するもの……即死や状態異常の類は概念的な防護が施されていて、完全に無効化される。
今だって勝ちを確信しながらゆっくりとイネちゃんの体を舐めまわすように歩いてくるヒロ君の姿をつぶさに観察できてしまっているわけだし……というか視線がいやらしいな、流石性癖にロリコンって堂々と記載されるだけのことはある、自分で言っててなんか複雑な心境にはなるけど。
「どうせならここで楽しんでからゆっくり片付けてやる……辱めてくれたお返しって奴だ!」
そう言いながらイネちゃんの臀部に手を伸ばすどころか完全にそこにしか視線を集中させていない隙だらけな側頭部を両手で掴んでから、自ら下を向いててくれたその顔面に膝をプレゼントしてあげてから、更にその勢いでプロレス技のフランケンシュタイナーに近い動きで両足で頭をはさんであげてから飛び上がった勢いによる運動エネルギーと自重移動による位置エネルギーを利用して、ヒロ君の頭を地面に叩きつけた。
なんというか……普通ならここで試合終了ってレベルのコンボが綺麗に決まってしまったあっけなさに会場は静まり返ってしまう。
「……生きてる?」
「まぁ、生きてはいますね、生体感知できますので」
「よかったよかった、じゃあスーさんカウントお願い。こっちはルールに従い距離を取っておくから」
ゆっくりと規定距離を取ってから、スーさんの10カウントが終わるのを待つ。
まだ立ち上がる警戒はしておくけれど、時間を止めたと思っていた状態で急に受身が取れない勢いでの頭部強打な技を繰り出した以上、普通ならこれで終わりではあると思う。
ただ相手は普通じゃないからね、ステータスという数値データに身体能力ブーストされている人間なわけだし……一応はヨシュアさんも化学的、スポーツ学的には筋組織量は地球の人よりちょっと多め程度なのにも関わらず、ロロさんと腕相撲で10秒耐えるくらいの地力を見せるからね、ステータスがどういう影響を与えるのか未知数な以上気を抜くことはしないでおく。
「ふざけんじゃねぇ!チートだチート!」
まぁ、チートと言われたら否定はしきれないな、大陸の創世神の力を使うことができるわけだし。
ただ、その恩恵は今のところ状態異常無効以外発揮していないわけで……身体能力の先天性な物も恩恵とは言えるかもしれないけれど、今やってみせた技術は努力して身につけた業なのでチートというそしりには該当しない。
「戦えますか?」
「当たり前だ!」
とファイティングポーズを取るヒロ君ではあったが、その足は生まれたての動物のようにプルプルしていてなんというか……哀れな感じになってくる。
「わかりました、1ダウンとしてカウントします。では再開!」
「もう殺すつもりで行ってやる!ラーヴァウェーブ!」
そうヒロ君が叫ぶと、次は溶岩の津波がイネちゃんに向かって流れてきた。
「土石流の強化版って奴だ、もう泣き喚いても止めてやんねぇ!」
「いや別に止めなくていいよ」
大地に関する現象が、大地を司るヌーリエ教会の主神であるヌーリエ様の力を運用できるイネちゃんに効く道理は皆無で、溶岩だって高温の鉱物資源だからね、イネちゃんの勇者の力で逆に乗っ取ることもできてしまう。
でもまぁ、そこまで絶望を与える必要はなさそうにも思えるし……とりあえず地面を隆起させつつ、溶岩の逃げる穴を作って防いだっぽく演出してみる。
「レギュレーション違反ですよ」
「もう知ったことじゃねぇ、俺は勇者で最強なんだってずっと証明し続けてきたんだ。仲間の前でこれ以上無様は見せられねぇんだよ!」
「ルール違反を認めるので?」
「負けるくらいならルールなんざ破ってやる!」
うん、戦いへの姿勢としては大変よろしい。
最も、これが本当に命のやり取りではなく、ルール有りで非殺傷前提の決闘試合で無ければのお話だけど。
ただこの反骨心や勝利への貪欲さはヨシュアさんにはなかったものだしね、思いだけでは人は救えないってのを理解しているのはイネちゃんからしてみれば高得点ってだけ。
「イネさんも鏡対応はまだ控えてくださいよ!」
スーさんに先手を打たれてしまった……ここからは銃を使ってあげようかと思ったのに。
でもまぁまだって言及したってことはスーさんなりにルール違反回数でイネちゃんを止めなくなるって宣言でもあるわけだし、もうちょい狙ってみるかね。
非殺傷レギュレーションで唯一運用できるとしたゴム弾装填済みのSPASを抜いて溶岩で死角になっている位置から距離をつめるため動く……勇者の力で感知しているとは言っても、正直これは成功するとは思っていない。
「ヒロ!相手はまだ無傷です!」
「右から回り込もうとしているぞ!」
「お怪我を治します!」
と外野が全力介入してきているものだから持久戦になると回復が飛んできてとても面倒になる……スーさんもレギュレーション違反だって指摘、さっさとしてくれないかな、まぁタイミング的に実際違反が行われた直後にってことだろうけど、決闘だからタイマンだって常識はあちらの世界にはないっぽいことは頭の中を覗けばわかっただろうに、事前に言っておいてくれればよかったのにね。
「決闘の意味を理解していないのかなぁ」
「ルールにゃ1対1だって書いてなかっただろうよ!」
書く必要すらない不文律なんだよなぁ……常識ないのかな?
「追撃のシャインドーン!」
叫びと同時に頭上から光のハンマーとも言うべき形状の、純粋な魔力による攻撃が飛んできたけれど……あちらがレギュ違反を続けるのならそろそろイネちゃんも無視しちゃっていいかな、暴徒鎮圧みたいなラインにまで行きそうだし。
そう思いながらも鋼鉄靴の靴底部分をローラーダッシュに変換してハンマーを回避してからスーさんに確認する。
「スーさん、流石にそろそろいいかな?」
「まだ全てを違反しているわけではないので!」
「まだ舐めプかぁ!エアプレッシャー!」
うーん、英単語的に空間圧殺系かな、避けるけど。
実際のところ、現時点であちらの攻撃は土煙を派手にあげるものばかりだからイネちゃんが戦いやすい環境がどんどん整っていくだけなのだけれど……もしかしてスーさんはイネちゃんが全力を問題なく発揮できる環境が整うまでストップをかけるつもりなのかな。
「単純にここまでになってしまうと、イネ様の一撃は確実に彼を殺してしまうからですよ。逆であれば死にはしませんし」
「雑魚扱い……してんじゃねぇ!」
まぁ、スーさんの今の言い方だと雑魚扱いだよね、事実としてイネちゃんだけじゃなく、大陸で上から数えたほうが早い面々相手だとヒロ君は見た目だけが派手な曲芸師程度の認識になっちゃうけど……未だ1度もその全力を出していないイネちゃん相手となればあちらのプライドは傷つきまくることは当然。
「イネ様、ここまでルールが無視されている以上決闘ではないと判断致します。鎮圧をよろしくお願いします」
「せっかくゴム弾装填したのに……了解!」
SPASをしまいながら、地面からビームライフルを生成してその銃口を上空に向けてから警告のために金属粒子を極限まで完全圧縮してから最大出力で引き金を引いた。
それと同時並行でアングロサンの主力兵器であるアグリメイトアームの標準装備としてのビームライフルも生成して終わらなかったときに備える。
「今のは特別なものじゃない、こちらが普段使いしている武器による射撃」
「当てられないくせに!」
「いや当てたら蒸発するけどいいの?直撃で確実なオーバーキル、掠めただけでも鉄どころか鋼鉄やチタン、タングステンだって溶ける温度を君は耐えられるとでも?」
まぁ実際のところ架空金属粒子を縮退圧縮している都合、ビームの直撃温度はウランやイリジウムとかでもちょっと怪しいレベルにはなってるけど、実のところ掠めるタイミングでも熱量で溶けたりはしない……というかそんなダイレクトに放熱すると周囲への環境負荷がえげつないことになるからね、掠めたときに影響があるのは超高質量の物質が高速で掠めた物理的なものが基本になるっていう。
最も、距離が離れれば縮退状態が保てなくなって金属粒子として霧散、自然界で存在しうる温度まで冷却されるけど、イネちゃんが創作物再現で作ったこのビームライフルの有効射程はおよそ10kmくらいあるから、肉眼範囲でなら特殊な防御システムでもない限りは実質防御不可の必殺武器ではある。
そしてキハグレイスと呼ばれる世界に超圧縮、縮退された超高温の金属粒子を防ぐ術は詠術と呼ばれる魔法で存在していなければまず防御不可能な即死兵器と言って差し支えないはずなので、それがいつでも撃てるということを使って見せたのが今の状況ということになる。
「スクラミアス様の御力を備えたヒロの鎧は、そのような攻撃なんて……」
「確実に覆われることがない眼球を直接撃ち抜こうか?今撃ってみせたのは単純質量、熱量による圧殺で、別に精密照射ができるのも既に準備済みだけど、続ける?」
「続けるに決まっている!スピードブリンク!」
スピードブリンクってまた変な単語の組み合わせで……。
考えた瞬間ヒロ君がイネちゃんの真後ろに現れ。
「ブラッディエッジ!」
「叫ばないとダメってのは、不意打ちするには余りにも不都合じゃないかな。後それ凄く悪役っぽい」
大声での叫びが聞こえた方向へと向かって一気に踏み込んで、イネちゃんの体を支点としてヒロ君の動きと体重を利用して地面に叩きつけると、ヒロ君は乾いた空気を吐き出して気を失った。
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