第四章 王宮書記官の旅2(真歴一四九七年一二月)
1.ジャニィ
珍しく緊張していた。
玉座の間へと続く長い廊下を、ジャニィは規則正しい足音を響かせて歩いていた。
真新しい王宮書記官の制服はゴワゴワしており、一歩足を進める毎に肩の辺りに違和感があった。
王宮書記官の制服といっても、それは、軍の士官服と形状は同じだ。唯一違いがあるとすれば、それはその色だけである。
軍の制服は、ヴォーアムの国色であるヴォーアムグリーンがベースになっており、いかにもミリタリー色が強い。それに代わり、ジャニィの書記官用の制服は、濃い青がベースとなっているためか、一見すると学生服のように見える。
また、それは、ジャニィの年齢がそうさせているのかもしれない。
本来、書記官には退役した老齢の軍人や女性が多く、ジャニィのような若い男の書記官は極端に少なかった。
ジャニィが初めてこの国の制服を着たのは、王宮への仕官が決まったときである。
かれこれもう五年も前の話だ。
その頃のジャニィはヴォーアムの騎士団に所属していた。
騎士団といっても、その下部組織の訓練生みたいなものだったが……。
ジャニィはオボステム市内の学校を卒業すると、すぐにヴォーアムの騎士団に入団した。
通常であれば、ヴォーアムの国民でなければ、騎士団などには入れないのだが、ジャニィは父のコネでの入団であった。
その昔、ジャニィの父が、ヴォーアム領内にあるトロザー島の灯台守をしている頃、現ヴォーアム王であるエレファンの乗っていた船を救出したことがあったそうだ。
灯台守は大きな幻導力灯を光らせる必要があることから、それなりの幻導力の持ち主でないと務まらないとされていた。そのため、海岸の接する国々では、国籍を問わず優秀な幻導師であれば、誰でも雇い入れていた。
そのためか、灯台守とは、ある種の特権階級のような職業でもあった。
ジャニィの父は、専属の灯台守ではなく、本業は物書きだと言っていた。
しかし、ジャニィの父には物書きの才能はあまり無かったのか、出稼ぎのように各地で灯台守をすることの方が多かった。
幼いジャニィは、そんな灯台守の父親のことが大好きだった。
幻導力を使い、巨大な幻導力灯を光らせる父を尊敬していた。
ある日、ジャニィは「それだけの幻導力があるなら、ちゃんとした幻導師になればいいじゃないか」と問いかけたことがあった。
すると父は「ジャンセン家は代々物書きの家系だからな」と笑って否定した。
「ええー、じゃあ僕も物書きになるの?」ジャニィは不満交じりで、父に食い下がった。
「うーん、それはどうかな? お前より姉さんの方が物書きには向いてるかもな」
「姉ちゃん? なんで? 遊んでばっかじゃん」
「遊んでばっかか……、でも、それが良いんだよ。色んなものに興味を持ってるってことだろ? 物書きには、そういう才能が必要なのかもな。ところで、ジャニィ、お前は何になりたいんだ?」
「そうだなー、僕はやっぱ、お父さんみたいな幻導師か、かっこいい騎士がいいな」
「おいおい、私は幻導師じゃないぞ」
「そっか、じゃあ騎士になる。僕が騎士でお父さんが幻導師ね」
「ハハハ、そうだな、それだったらいいかもな」
そう言うと父はニッコリと微笑み、ジャニィの頭を撫でてくれた。
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