11.アイソダ
王子は、疲れた体を引きずりながら、村を目指した。
橋を越え、畑の畦道を抜け、例の納屋が見えてきた。
村までもう少しだな。
日は高くなり、魔物の血で真っ赤に染まった顔から汗が流れ落ちるのを感じる。
まるで自分が血を流しているようだ。
王子が村の入り口までやって来ると、幻導師の家の前に人だかりができているのが見えた。
その人だかりの中から、一人の女がこちらを見ている。
昨日納屋の前で会った女だ。魔物が出たと騒いでいた彼女だ。
王子が人だかりに歩み寄ると、その女が近づいてきた。
王子の姿をみて女は口を開けている。
「魔物は倒してきたぞ」王子は女に報告した。
女は何も言わず、相変わらず口を開け驚いた表情のままだ。
「魔物は倒してきたぞ! どうした?」王子はもう一度強い口調で言った。
「あっ、いや、血だらけですよ……」女は王子の顔を指差して言った。
「あぁ」王子は袖で顔を拭いながら続けた。
「何かあったのか? 幻導師をちゃんと送り届けたのか?」
「ええ、昨日は、ただ、その……、アイソダさんは……」女はためらいがちだ。
「アイソダさん?」王子は聞き返した。
「この家の幻導師ですよ」
「ああ、そういえば、名前を聞いていなかったな。で、そのアイソダがどうした?」王子は先を促した。
「さっき、首を吊っているのが見つかりました」
「なんだと!」王子は群衆を掻き分け、アイソダの元へ向かった。
王子が家の中へ入ると、大きな書棚の前で首を吊っている幻導師の姿があった。
「どういうことだ?」王子には訳が分からなかった。
「お前、何をした? 昨日、アイソダと何か話しているところを見たぞ」村人が咎めてくる。
「何をって……」王子には状況がつかめない
「それになんだ? そんなに血だらけで」別の村人だ。
「きゃー、鞘から血が滴っているわよ」女が悲鳴をあげる。
「これは、魔物を退治してきたからだ」王子は説明しようとしたが村人の声が響く。
「魔物? そんなものいねぇ。さてはおめぇ、山賊か何かか?」
「山賊? 人を殺してきたのか?」村人たちの声が続く。
「アイソダをこんな目に合わせたのも、もしや、お前なんじゃないか?」最初の村人だ。
「まさか……」王子の声はヒステリックに叫び合う村人たちの声にかき消された。
「うっ」王子は左足に痛みを感じた。
「このやろう」村人が殴りかかる。
「やめてくれ」王子の叫びは村人に届かない。
「お前はなんだ!」
「悪魔の手先か?」
「きっとそうだ、こいつは魔王の手先だぞ!」
もはや、村人の恐怖の対象は王子となり、容赦のない暴力が王子を襲った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます