10.廃村
夕暮れ、王子は川向こうの隣村に辿り着いた。
水辺が近いせいか、遠くでカエルの鳴く声が聞こえる。
王子は村を囲う柵を跨ぎ中へ入った。
木造の家と家の間をすり抜け、井戸の前にやってきた。
この井戸を中心に家が立ち並んでいることから、ここがこの村の中心部だとわかる。
王子は辺りを見回したがやはり人影はなかった。
先ほどから感じていたが、やはりここは廃村なのだろう。
隣村の魔物、そんな物がいるのだろうか?
王子がそう思うと、十メートルくらい先の暗がりに何か動くものが見えた。
王子は注意深く近づいていった。
井戸の位置からではよく見えなかったが、近づいてみれば、なんてことない大きめのカゴが風に揺れているだけだった。
「脅かすなよ」と恐怖心を払うべく毒づいた瞬間、カゴの中から何かが飛び出した。
あまりの出来事に王子は尻餅をついた。
が、素早く横に反転し、今自分を飛び越えって行った物体の方を見上げた。
そこには、巨大な狼の獣が、あの青白い揺らめきを纏い二本足で立っていた。
眼光は鋭く、腕はダランとおろしているが鋭い鉤爪が不気味に光っている。
魔物だ。王子は立ち上がると、幻真の剣を抜き、魔物に向かって走り出した。
魔物は後ずさりすると、方向を変え背中を向けた。
「逃すか!」王子は勢いに任せて跳ね上がると、そのまま幻真の剣を魔物の背中に振り下ろした。パァーンと弾けるように辺りが一瞬光ったかと思うと、目の前には動かなくなった魔物が横たわっていた。
魔物の背中はぱっくりと割れ、赤い血がドクドクと流れ出ている。
こいつが村に現れた魔物か?
納屋の死体の傷を見る限り、この鉤爪でやられたように見えるが……。
王子が魔物の死骸を見ていると、さらに井戸の横からこちらを見ている魔物がいることに気付いた。王子はハッとしたが、すぐに幻真の剣を握り締め構えをとった。
何匹いるんだ? ここは廃村ではなく、魔物の村なのか?
王子はそんな事を思いながら、井戸の横の魔物に近づいて行った。
さっきの奴に比べれば、少し小さいな。
王子は、間合いに入ると一気に切りかかった。
魔物は左腕で剣を受け止めようとしたが、閃光とともに腕は切り落とされた。
その瞬間、怯える表情を見せたかと思うと、魔物は一目散に逃げ出した。
「待てぇ」王子が魔物を追いかけ、半分腐りかけた廃屋の横までやって来ると、突然窓から飛び出してきた魔物に飛びつかれた。
魔物に抱き付かれる格好でそのままゴロゴロと転がり、魔物に抑え込まれる形で止まった。
鉤爪が飛んでくる。やられる。
そう思った瞬間、王子は咄嗟に持っていた幻真の剣で顔を塞いだ。
パァーンとまた閃光が走り、その衝撃で魔物が弾け飛んだ。
後方へ飛ばされる魔物が光の中、一瞬だけ人のように見えたが、王子はすかさず立ち上がり、転がる魔物に突進した。
幻真の剣が魔物の脇腹に突き刺さると、もう一度弾け、一瞬の閃光の後には魔物の死体があった。
王子は荒い息を整えながら、辺りの様子を伺った。
神経を研ぎ澄ませ、家々の暗がりに目を向けると、そこにはいくつかの光る目があった。
襲ってはこないが、見られている。
王子は恐怖心を押し殺して、光る目が宿る家々へと向かっていった。
木の家、石造りの家、廃屋、納屋、至るところを調べ上げ、そこに住み着く狼人間どもを一匹、また一匹と殺して回った。
そして、最後の魔物を倒した頃には、朝日が昇り始めていた。
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