7.幻真の剣

 王子が枝を集めて、幻導師の家へ戻ると、幻導師は忙しげに何かの準備をしていた。


「枝を取ってきたぞ」

 王子は枝を床へ放り投げた。

「ずいぶん早かったですね」幻導師は準備の手を休めずに言った。

「なんなんだ? あの枝人間は?」王子は汚れた手を払いながら幻導師に尋ねた。

「森の精霊ですよ」幻導師はあっさりと答えた。

「森の精霊? 精霊を殺しても構わないのか?」

「ダメでしょうね」幻導師はまたもあっさりと言った。

「笑えないな、私はどうなる?」王子は少し不安になった。

「わかりませんね。今まで精霊を殺した人間なんて見たことないですからね。気をつけろとは言いましたが、ただの枝で良かったのですよ。まあ、精霊が宿っていた枝なので良い剣が作れますよ。どの枝がしっくりきますか?」


 王子は釈然としないながらも、床に放り投げた枝を一本ずつ拾い握ってみた。

 どれも変わらないように思えたが、最初に拾ったやつが、剣としての長さがちょうど良いように思えた。

「これだな」王子は枝を掲げた。

「どれ……。問題なさそうですね。では、一晩掛けてこの枝から剣を作ります。あなたはそこのベッドで休んでいてください。なあに、明日の朝には完成していますよ」そう言って幻導師は作業に没頭していった。


 ――


 翌朝、目が醒めると、ベッドの脇に幻導師が立っていた。

「おはようございます。無事に完成しましたよ」

「一晩中作業していたのか?」王子はベッドから起き上がりながら言った。

「ええ、おかげで良いものができました」

 幻導師は誇らしげに、幻真の剣を王子の前に差し出した。

「すごいな。とても木の枝から作られたようには見えない」王子は感心した。

 質感はまさに金属そのものである。木から作ったとは思えない金属特有の光沢があり、よく磨かれていて切れ味も鋭そうに見えた。


「では、死体を見に行くか」王子は幻真の剣を鞘にしまいつつ幻導師に促した。

「ええ、行きましょう。こちらです」幻導師は、王子を先導しつつ家を出た。

 相変わらずの晴天だ。王子は朝日の眩しさに目を細めながら幻導師の後を歩いた。

「納屋はあちらです。見えますか?」幻導師は右手で、畦道の少し先にある小さな小屋を指した。

「やはり、あれか。昨日枝を取りに行く時に見えたからな」

 幻導師と王子は納屋の扉を開けて中へ入った。

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