第181話 アスファルトゲットだぜ
降下を始めたものの地面がしっかり見え始めたところで、飛行船の高度が保たれていた。
「ん、ガルーガ。着陸できそうなポイントはあるかな?」
「探します。黒き湖は広大です」
飛行船はどんな障害物があっても、易々と高速移動できる。難点は着陸地点の確保だよね。
これが飛行機になると滑走路が必要になるし、決まった場所にしか着陸できなくなる。
そういや、ゲームとかでも上手いこと先に進めないよう着陸可能なエリアが設定されていたよな。ここはゲームじゃなく現実なので、いやらしい場所に着陸地点があるわけじゃあないけど……。
「目で追っていては時間がかかるじゃろ。待っとれ」
「お、魔法か。魔法なのか」
風魔法を使う必要のなくなったセコイアだから、魔法を使う余裕があるのかな。
セコイアが参加しているのは、飛行船を動かすためではない。
もう一つの課題だった安全対策のため……は少しだけあるけど、万が一の落下時対策を取ることはできている。
というのは、パラシュートを持ってきているからだ。これは飛行船の副産物である。
飛行船の改造ついでに作ってもらったんだ。
飛行船の風船部分とよく似た素材だったからね。風の抵抗やら浮力やらで苦労するかと思ったけど、なんてことはなかった。
ミニチュアを作って、よしいけるとトーレがあっさりと落下実験を成功させてしまったのだ。
そうそう、飛行船の改造が終わった彼らの次は……。
「魔法の時だけはボクを見る目が変わるのじゃな……」
「いつもと同じだって」
「いつもは死んだ魚のような虚な目をしておるぞ」
「ま、まじか……」
「冗談じゃ。しかし、キミと宗次郎は魔法となると身を乗り出し喰いつかんばかりの勢いじゃな」
ペンギンと顔を見合わせ、苦笑いする。
そんなわけで、セコイアの風魔法? によってすぐに着陸地点が発見できて無事岸辺に降り立つことができた。
◇◇◇
「ん、んんん」
鼻をヒクヒクさせ、真っ黒の湖面から漂う匂いを嗅ぐ。
気温が低くて固まっているようで、思ったほど臭いが強烈じゃなかった。
黒い湖の影響か、岸部には草一つ生えていない。今のところ、動くものも見当たらないな。
近くに落ちてた木の棒で黒い湖面を突っついてみた。
ふむ。表面がカチカチで枝が水面に入っていかない。
ここは山の中で高度が高い上に季節が冬ときたものだ。水が凍る程の気温ではないと思うのだけど……。
「ヨシュアくん。サンプル採取をしよう」
「だな」
おなじみのノミとトンカチで湖面をガツガツやって黒い破片をガラス瓶に詰め込む。
固体のママだったら麻袋に詰めて持てるだけ持って帰れそうだが……。
って、おい。
「セコイア。湖面に乗るのはさすがに危ないって」
「そうかの? 風魔法で自重を10分の一にしておる。沈みそうなら浮けば良い」
「お、おう」
こ、このチートめ!
そういや「魔法で飛べる」とか言ってたなこの野生児。
ピコーン! 俺は素晴らしいことを思いついた!
「セコイア、危ないからこっちへ。ほら、抱っこしてやろう」
「……何じゃその猫なで声は……愛してやまないことヨシュアであっても気色悪い」
と嫌そうな顔をするセコイアだったが、伸ばした手を掴み自分から飛び込んできた。
尻尾を振りながら。
よしよしーと犬を撫でるようにセコイアの頭をなでなですると、不機嫌そうな顔はどこへやらふにゃあとなった。
これ以上やると涎危険、注意だ。
「セコイアは大魔法使いだったよな」
「そうじゃ。古今東西、ボク以上の使い手はそうそういないぞ」
「空だって飛べちゃうんだよな」
「いかにも。風に呼びかけるだけで飛ぶことができる。呪文も唱えずともなぞ、なかなかできるものじゃないのじゃ」
おおー、と合いの手を打とうとしたんだけど、生憎両手がふさがっていた。
そろそろ頃合いか。
「俺も一緒に飛べたりするのかなあ。確か、落ちる速度を緩めることはできるって言ってたよな」
「飛びたいのか?」
「そらまあ、人類の夢だろ。自分の力だけで浮遊するってのは」
「仕方ないのお。考えておこう」
「おお。ぜひぜひ頼む。ペンギンさんも一緒がいいな」
「宗次郎もか。キミらの興味はボクとまるで異なるのじゃな。ボクの興味はそちらの黒い湖の方が遥かに強い」
「科学か」
「そう、カガクじゃ」
「同じだよ。セコイア。俺も君もペンギンさんも『未知』のものに惹かれるんだ。俺たちは魔法。セコイアは科学ってな」
「言い得て妙じゃな。いつもカガクで楽しませてもらっておる。たまには魔法の真髄も見せてやろうて」
「やったー」
膝を落としてペンギンと手を取り合い、小躍りする。
子供のようにはしゃぐ俺たちに向け、両手を組みふうと息を吐くセコイアだった。
「宗太郎殿、これでよろしいか?」
「感謝する。ガルーガくん」
ん? いつの間にガルーガに頼んでいたんだ?
彼は大きな鍋を持って飛行船から降りてきた。
頼んだのは会話からしてペンギンで間違いない。
彼はフリッパーをあげ嘴をぱかんと開き、そこへ置いてくれとガルーガに指示を出していた。
「その鍋で……ここで当たりをつけられないかってことか」
「だいたい予想はつくがね。ひょっとしたら、というのもあるじゃないか」
「ふむ。火打石なら持ってきていたはず」
「それでしたら、私が暖めますわ」
あれこれペンギンと相談していたら、エイルが鍋の暖めを買って出てくれた。
◇◇◇
「おおお、すげええ。すげええ、魔法」
「神秘だねえ。ヨシュアくん」
黒い塊が溶けてきて粘性を持ち始める。
あれ? 興奮しているのは俺たちだけ?
あからさまに呆れた顔をしているセコイアは、いつものこととして。
暖める魔法を使ってくれているエイルにもいつも口元に称えている微笑がない。
ガルーガは困った様子で落ち着かないのか遠くを見たり、鍋に目をやったりと忙しない。
「ヨシュア、宗次郎も。普段から魔道具で燃焼石を熱する様子を見ておるじゃろ。暖める魔法は基本中の基本じゃ。驚く要素は一片たりともない」
「そうなのか? いやあでもさ。魔法だぞ、魔法」
「どんな寂れた村でも一人くらいは使えるありふれた魔法じゃぞ……それよりも、その鍋の中は気にならんのか」
「あ、これ。うんまあ……な」
ペンギンと目を合わせ頷き合う。
鍋の中身は、予想通りだったわけで特段、どうこうってのはないんだよな。
黙っていたら、焦れたセコイアの耳がピクピクし始めた。
「この黒い塊は使える。このまま麻袋に放り込めるだけ放り込んで持って帰ろう。その場で暖めてみるというペンギンさんの機転の賜物だよ」
「これは一体何じゃったのじゃ?」
やっとかとばかりに組んだ腕を伸ばしたセコイアが身を乗り出して聞いてくる。
「アスファルトだな。ええと、ペンギンさん」
「天然アスファルト……
「よ、よくそんな細かいことまで覚えているんだな」
「たまたまだよ」
さりげなく応じるペンギンだったが、いつもながら科学知識が凄まじい。
謙遜するペンギンをむにゅーと押しのけてセコイアが顔をこちらに寄せてきた。
近い、近い。分かったから。抑えろってば。
「それで、そのアスファルトとやらは、何に使うのじゃ?」
「まず使ってみたいのが、飛行船のコーティングにかな。あとは接着剤……は必要無いか。砂と石を混ぜて舗装にも使える。こっちはコンクリートがあるから、どちらでもだけど。アスファルト合材の方が固まるのが早いな」
「ふむふむ。水を通さぬ材質なのかの」
「うん。見た通り、粘性、接着性もあるから、防水コーティングに使うことができる。船とかにもよいぞ」
「相分かった。じゃったら、沢山持って帰ろうぞ!」
「おう!」
この後、ツルハシでカツンカツンしてアスファルトを積めるだけ積んでネラックに帰還した。
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