第139話 閑話 変わりゆくネラック

 ――ミーシャ。

 ヨシュア様自ら、わたしを治療してくださったの! 一緒にゲームをしたりして、とっても楽しかった!

 すっかり回復したわたしは、退院? ということになったんだ。

 それで、別れ際にヨシュア様がこんなことを言っていたの。

 

「ミーシャ。それにお父さんとお母さんも。早期の治療のために必要だったとはいえ、実験台のようにいろいろと試したこと、申し訳なかった」

「い、いえ。とんでもございません! ヨシュア様がいらっしゃってくれたからこそ、私たちはこうして病魔を克服することができたのです!」


 お父さんが深々と頭を下げ、お母さんとわたしもお父さんを真似して深々と頭を下げる。


「ガーデルマン伯爵領に手配をしよう。乗ってきた馬車はちゃんと保管している。馬も元気だ」

「そ、そのことですが、ヨシュア様。不躾で病魔を持ち込んだ私たちが言うのも憚られる願いだと分かっております。ですが、ネラックの街で暮らさせて頂けませんでしょうか?」

「構わないけど。いいのかな? 農地や家財道具も残してきているんじゃ?」

「よ、よろしいのですか! ありがとうございます!」


 こんなやり取りが合って、わたしたちはネラックの街で暮らすことができるようになったの。

 お家にはわたしやお母さん、お父さんのベッドとかスキやクワなどがあった。

 でも、うさぎのぬいぐるみ「ターニャ」がいるから、わたしはこのままここで住んでもいいかな。だって、ヨシュア様がいらっしゃる街なんだもの!

 きっと、住みやすいところに違いないんだから!

 

 ◇◇◇

 

 わたしたちは「インスラ」という簡易的な住宅に案内されたんだ。

 「簡易的」って雨風を凌ぐことができるだけ、という意味だと思っていたんだけど、違うのかな?

 頑丈な石壁で作られていて、「家族だから」ということで特別なお部屋を案内されたの!

 インスラの中は扉がいくつもあって、それぞれ別の人が住んでいるって案内してくれた人が言っていたわ。

 だけど、わたしたちが案内されたお部屋は、中に入ると階段があって二階と三階にまたがっていたの!


「すごいね。お父さん!」

「だな。簡易的なんてとんでもない。これだけ頑丈ならば嵐がきても雨漏りしないだろうし、ビクともしないさ」

 

 お父さんも嬉しそうに顔を綻ばせ、わたしの頭を撫でてくれた。

 ちょっとだけこのまま抱っこしてくれないかなあなんて思っていたら、ふわりと体が浮き上がる。

 

「すごいぞ。窓まであるじゃないか」

「うん!」


 窓際までわたしを抱えて運んでくれたお父さんと顔を並べ、窓の外を眺めたの。

 窓から見下ろす景色に思わず「ふわあ」と声が出る。

 

「お父さん。この街って。本当に少し前まで何もなかったの?」

「お父さんも信じられないよ。ここに来るまでビックリしていたけど、改めて見てみると本当に何もなかったなんて思えないな」

「うん!」


 石畳の道がずーっと続いていて、窓から乗り出して右手の道を覗き込んだの。

 そうしたら、遠くに広場みたいなものがあるのがわかったんだ。

 反対側も石畳の道が続いていて、道沿いにずらーっとお家が並んでいる。

 

 道を歩く人たちも一人や二人じゃなくて、生き生きとした顔で台車で荷物を運んだりしていた。


「こんにちはー」


 すると人懐っこい笑顔を浮かべたお兄さんが、わたしたちに向け手を振っている。

 彼は大きな台車をもう一人と一緒に運んでいるようだった。

 台車には荷物が一杯乗っているみたいだけど、布が被せられていて何を運んでいるのかは分からなかったの。

 ちょっと残念。ひょっとしたら、あまーいリンゴを一杯積んでいるかも? なんて思ったのに。

 

「こんにちは!」


 挨拶をしてくれたお兄さんに挨拶を返したの。

 すると、お兄さんたちは思ってもみないことを言ったんだ。

 

「ホルンさんでよろしかったですか?」

「はい。そうですが」


 お父さんが困った顔でお兄さんにこたえたの。

 突然大荷物を持った人から尋ねられても、困っちゃうよね。わたしたち、ここに来たばかりで道を尋ねられても分からないもの。

 

「家財道具をお持ちしました。ご希望は農具でよろしいですか?」

「は、はい。私は農家でした。ですので、ここでも農業をお手伝いできればと」

「大歓迎です! 畜産でも畑でも! ヨシュア様もお喜びになります」

「え、ええと。お待ちください。そちらに向かいますので」


 お父さん、お母さんと一緒に建物の外まで出たの。

 お兄さんがペコリと頭を下げ、荷物に被せた布を取った。

 中には、農具だけじゃなくコップとかフライパンなどの日用品だけじゃなく、魔道具までいくつか置かれていたの。

 

「ベッドとクローゼットは後から持ってきます。二、三日かかりますが、それまでは、不便だと思いますが毛布だけで」

「い、いえ。とんでもありません! 家だけでなくこんなものまで」

「食糧は配給になってます。いずれ貨幣を導入したら、普通の街のようになるだろうとヨシュア様がおっしゃっております」

「そ、そうですか。精一杯働かせていただきます!」

「そのうち、畑に近い場所に家を建てるとのことです。それまでは少し遠いですがここから農地へ向かってください」

 

 この後、荷物を降ろし運び込むことを手伝ってくれたお兄さんたちは、「じゃあ」と警備兵のような敬礼をして立ち去って行った。

 でも、驚くことはこれだけじゃなかったの!

 

 わたしたちが窓から外を眺めていたから、お母さんが言いそびれたっていっていたんだけど……。

 煮炊きの魔道具も揃っていたんだって! 蛇口を捻れば水が出るし、トイレまであったのよ!

 すごいすごいよ。

 来たばかりのわたしたちにここまでしてくれるなんて。

 

 わたしもお手伝いできることを見つけたい。わたしじゃあ、できることが限られているけど、きっと何かできるはず!

 配給をしているって言ってたよね? だったら、お料理のお手伝いなんてどうかな?


「ねえねえ。お母さん。配給ってどこに行けばいいんだろう?」

「さっきのお兄さんがまずは中央広場に行ってくださいとおっしゃっていたわ。行ってみましょう」

「うん。お父さんも」

「もちろんさ! さっそく行こうか」

「うん!」


 右手でお父さんの、左手でお母さんの手を引っ張って、早速広場に向かうことにしたんだ。

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