第94話 異世界の気候
カボチャパイに、パンプキンタルト、カボチャプリン、カボチャクリームが完成した!
飲み物はタピオカミルクティーの上からカボチャクリームをちょいと乗っけたものだ。
卵を使っているんじゃないかって?
そうなんだ。ソーモン鳥の卵と某牛乳令嬢からお裾分けしてもらった牛乳も使っている。小麦粉と紅茶以外は全てこの地でとれたものを使っているんだ。
甘みはカボチャそのものと、バルトロが採取してきてくれたあまーいハチミツの二点である。
牛乳ついでにシャルロッテも家に呼び、カボチャパーティと相成った。
いっぱいお菓子を作ったけど、俺は紅茶を淹れてカボチャクリームを乗せただけという、まるで料理に貢献をしていなくて申し訳ない。
多くのアイデアはルンベルクとエリーが出してくれたものだ。彼らは既存の有名なお菓子のレシピをそのまま使っただけだと謙遜していたけど、パッとこれだけ思いつくのには頭が下がる。普段から料理に親しんでいることが如実にわかるってものだ。
ハウスキーパーの四人にシャルロッテ、ちょうどルンベルクと旧交を温めていた仮面の紳士ことリッチモンドと俺で合計七人が食卓を囲む。
「ルンベルク殿にこのような一面があったとは……」
リッチモンドは表情こそ仮面に隠れて見えないが、彼にとっては意外過ぎる出来事だったのだろう、肩を震わせるだけじゃなく指先もプルプルしていた。パンプキンタルトを指さしたそのままの姿勢で。
そんな彼に俺は自分のことのようにルンベルクを自慢する。
「ルンベルクは何でもできてすごいんだ。執事ってことになってるけど、彼がやってくれていることは多岐に渡る。そして、そのどれもが素晴らしいんだよ!」
「ルンベルク殿ならば!」
「ヨシュア様……」
力強くリッチモンドが言葉を返したところで、あることを思い出す。
そう、ルンベルクが横にいるのを忘れてたんだ。
彼はどこからか取り出した絹のハンカチを目元に当て滂沱の涙を流している……。
さすがに本人がいる目の前で、我が事のように自慢するのはまずかった……かも。
ルンベルクがいたく感動し感涙しているのはまだ理解できるとして、何故かエリーまで号泣しているし!
バルトロもへへっと鼻をさすりしんみりとした様子に、リッチモンドに至っては仮面の下からポタポタと雫が垂れている。
俺がやらかしたかもしれない。だけど、いくら何でも反応が大き過ぎだろ。
「さ、食べよう。な、アルル」
「はい! おいしそう、です!」
比較的平静を保っていたアルルに声をかけると、彼女は元気よく両手をあげ耳をピンと立てた。
さすがに涎が垂れるまではいっていないけど、このまま待てをしたらダラダラするかもしれない。
彼女の名誉にかけてそのようなことはしないけどね!
どっかの野生児になら容赦なく実行するけど。
「何か変なことを考えていたじゃろ」
「どうえええ!」
突然、肩に顔が乗っかってきた。
何だなんだ、妖怪か? 狐耳が生えているし、きっと背後霊か何かに違いない。
「びっくりし過ぎじゃろ。何やら楽しそうなことをやっていると聞いての。顔を出したのじゃ」
「そ、それならそうと、正面から来たらいいじゃないか。いつの間に部屋に入っていたんだよ」
「キミ以外は全員気が付いておったが?」
「それならペンギンさんやガラムたちも連れて来たらいいのに」
「ガラムらは酒宴の真っ最中じゃな。宗次郎ならそこにいるだろ」
どこ?
あ、いた。
レースのかかった机の下にぬぼーっと立っている。
だから、何で二人ともわざわざ俺から見えない位置にいるんだよ。
彼女らの分も飲み物を用意しなきゃ。
「お持ちいたしました」
「は、早いな……いつの間に」
絹のハンカチを目に当てていたはずのルンベルクが、優雅にお盆の上にタピオカミルクティーを乗せて俺に向け会釈をする。
完全に話の腰を折られてしまったが、改めて。
こほんとワザとらしい咳をすると、全員の注目が俺に集まる。
そうかしこまられても逆にやり辛いのだが。
ええい。気にしていたらまた変な邪魔が入る。
「みんな、集まってくれてありがとう。じゃあ、カボチャの試食会をはじめよう!」
タピオカミルクティーの入ったコップを掲げると、コップを持てないペンギン以外が同じようにコップを前にあげた。
「乾杯!」
紅茶で乾杯もねえだろうと思ったんだけど、何だかこう様式美というやつと言えばいいのか。
飲み物もって開始の合図なんかしちゃったら、こう、つい。
おっと、こうしちゃおれん。俺が食べ始めないとみんな食べてくれないからな。
ペンギンとセコイア以外。
そんなわけで、失礼ながら一番乗りで小声で「いただきます」と手を合わせてから、切り分けられたカボチャパイに手を伸ばす。
もしゃ、もしゃ。
お、おおお。
砂糖を使っていなくても、いや、むしろハチミツとカボチャの自然な甘さでこちらの方が好みかもしれない。
パイ生地もサクサクで、これがまたカボチャとよく合う。
「おいしい! みんなもちゃんと食べてくれよ」
ささっと、小皿のカボチャパイを乗せてエリーとルンベルクに手渡す。
二人は恐縮したように一歩引いてしまったが、気にせず押し付け、続いてアルル、バルトロ、リッチモンドと次々に配っていく。
野生児は勝手に取るだろうから、別にいいや。
だけど、ペンギンにはちゃんとお皿にカボチャパイだけじゃなく他のお菓子も乗せて、床に置くことにした。
だって、彼はテーブルの上までフリッパーが届かないものな。よしんば届いたとしても上手くつかめないから、下手すると全部ひっくり返して大惨事になってしまう。
『もっちゃもっちゃ……ほほお。こいつは良いね。日本にいた頃を思い出す』
『そっか、ペンギンさんはお菓子を食べていなかったものな。今更だけど、種族的に口にして大丈夫なのかな……』
『まあ、問題ないさ。いざとなれば』
『分かったから。頼むからそうなってもここでやらないでくれよ』
『もちろんだとも。それくらいはわきまえているさ』
ペンギンは相変わらず食べ方が汚い。喋ると年配の紳士って感じなんだけどなあ……。
あ、プリンはどうやって食べるんだろ。嘴を突っ込むも、プリンの入った容器の中まで入って行かない。
分かった分かったから、嘴を打ち付けようとするのは止めてくれ!
無言でペンギンが執着しているプリンへスプーンを差し込み、彼の嘴の中にスプーンですくったプリンを突っ込む。
『もっちゃもっちゃ……うんうん』
『焦らなくても、これはペンギンさんの分だからさ。ちゃんと最後までスプーンですくうから』
『ふむ。特に急いでいたわけじゃあないんだがね。そうそう話は変わるが、アメジストと水晶の鉱脈は大発見だったね』
『俺もビックリしたよ。日本だったら大金持ちだなあれ』
『私は食べることと研究することができれば、それで大満足さ。大金なんて必要ないさ。君だって恐らくそうだろう?』
『うん。金には特に執着していない。日本にいたとしたら少しはお金も欲しいけど。あ……』
日本のことで、唐突に思い出した。
この世界と地球はかなり様相がことなる。地球での常識はこの世界じゃあ通用しない。
そう、気候も。
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