第63話 浄化のギフトはチートだった件

 鍛冶屋に戻るとガラムの弟子のドワーフ二人がルビコン川に入り、何やら作業をしていることが目に入る。

 ドワーフの二人は身長150センチくらいで丸太のような腕をしていた。二人とも髭もじゃで髪色は茶色とあって、俺には瓜二つの双子のように見える。

 彼らにつきそうように……いや、単に彼らの傍でばっしゃばっしゃとフリッパーをばたつかせているペンギンがシュールでならない。

 いや、分かっているんだけどさ。あのペンギンは見た目通りじゃあないってことを。彼の頭脳はカンパーランド辺境国に福音をもらたすことは確実である。

 それでも、映像だけだとドワーフ二人をペンギンが水をかけて邪魔しているようにしか見えないんだよな。

 

 一体彼らは何をしているんだろう?

 てとてとと川岸まで歩いていったセコイアの尻尾がピンと立っている。

 あの様子からして、彼女はドワーフらの動きに興味津々といったところ。

 

「ヨシュア様!」


 今度はトーレの弟子の青年二人と浄化のギフト持ちの少年ネイサンが鍛冶屋から出てきた。

 青年二人は人間で、うち一人が一抱えほどもある木製のギアを持ち、もう一人が鉄製の軸? らしきものを抱えている。

 

「水車の軸を交換するのかな?」

「はい!」


 手が開いていたネイサンに問いかけると、彼はくるくると巻いた金髪を揺らし満面の笑みを浮かべた。

 いいねえ。無邪気な少年ってやつは。

 あそこにいるロリは見た目だけだからな……。

 視線に気が付いたのか、ロリ狐が首だけをこちらに向けてくる。

 

「なんじゃ? ボクの尻を凝視しおってからに」

「スカートはもう少し長くしてもいいんじゃないか? 跳ねると見えるぞ」

「ッツ!」


 スカートの裾を抑え、狐耳の毛を逆立たせるセコイア。

 今更だよな、うん。


「賢者様とヨシュア様は仲がよろしいのですね! ヨシュア様は教授のような方も連れてこられましたし、叡智には叡智が集まるのでしょうか」

「あ、そ、そうだな」


 キラキラした目で語られたら無碍にはできない。

 教授ってのはペンギンのことかな?

 彼はまだ水をばしゃばしゃさせて遊んでおられるが……。

 あれ、でも。

 

「セコイア。ペンギンさんは公国語を喋ることができないよな?」

「カタコトならいけるんじゃないかの。あっち、そっちくらいなら、指で示せばよい」

「もうカタコトまでいけるのかよ。無駄にスペックが高いな……」

「それは、ボクと脳内で会話をしているからじゃ。どうじゃ、すごいじゃろ」

「おう。素直にすげえよ」


 セコイアの魔法はともかくとして、脳内会話って言語理解の一助になる程度だろ?

 発音はどうしたんだとか、不思議な点はある。その辺も脳内会話学習でカバーできるのかな?

 一つ言えることは、ペンギンの学習能力が凄まじいってことだ。

 

 このまま水車がリニューアルされていく様子を眺めていてもいいんだけど、アルルに働いてもらいながら自分だけ休むってのもなんだか気が引ける。

 彼女には魚を獲りにいってもらっているんだ。水車の作業を邪魔しないよう、少しだけ上流でね。

 といっても、遠目に川に入った猫耳の姿は確認できるほどの距離だ。

 

 俺と同じかどうかは不明だけど、パーツを持っていないネイサンと目が合う。

 彼は岸部から作業に加わった青年二人と作業をしていたドワーフ二人の様子を見守っている。


「ネイサン、ちょっとよいか?」

「はい!」

「急務ではないんだけど、必ず必要になるものがあるんだ。先日、素材は発見して鍛冶屋の軒先に吊るしてある」

「僕に何かできることがあるんでしょうか!?」

「察しがいいな。ネイサンにしかできないことだ」


 葉っぱごと吊るしていた枝に手を伸ばし、様子を確かめてみた。

 二日くらい干していただけだけど、結構乾燥するものだな。正直、作り方はよくわかっていないんだけどやるだけやってみようじゃないか。

 

「ネイサン、この枝はスツーカといってな、紙の原料になるものだ」

「紙の? へえええ。木と葉っぱが紙になるんですね!」

「うんうん。公国だと製紙工場で作っているんだけどさ、魔道具をふんだんに使っている。だけど、ここには魔道具がない。魔石も……まだない」

「別のやり方で紙を作るのですか! すごいです。ヨシュア様!」

「そこで、ネイサンの持つ浄化のギフトを役立ててもらおうと思ってさ」

「僕の? 僕のギフトが! ありがとうございます。ヨシュア様!」


 ネイサンは自分のギフトが余り人の役に立たないと沈んだ顔をしていたからな。

 そんなことはないと、あの時彼に言った。

 ざっと俺が思い浮かべただけでも、紙に加えもう一つ使い道がある。

 ペンギンに彼を預ければ嬉々として科学物質の抽出やらをお願いするだろうと思う。

 

 ええっと、紙の作り方ってどうやるんだっけか。

 繊維をソーダ灰を入れた水で煮込む過程だけは覚えている。

 今試そうと思ったのは、先日ソーダ灰を作ることができたってのもあるのだ。


「ソーダ灰は鍛冶屋の中にまだあったはず」

『ソーダ灰かね。君の精製方法がよろしくなかったので、改良を加えたよ』

「どええええ」


 腰の辺りが突然ひんやりとしたかと思ったら、ペンギンがフリッパーをペタペタと俺の腰に当てていたからだった。

 さっきまで水の中にいたこともあり、フリッパーは濡れている。

 なので、ひんやりしたってわけけだ。


『何かね? 今更驚くことではないじゃないか。私がペンギンだというのは今更だろう』

『いや、水で遊んでいたと思ったら、突然後ろに立っていたからビックリしたんだよ』

『ふむ。そいつは失礼したね。何やら楽しそうなことを始めようとしたものだから、つい、ね』

『紙を作ろうと思ってさ。この葉と枝が紙にできるって鑑定結果がでたんだよ』

『鑑定結果……それは魔法につらなる術理の一種かい? 興味深いが、今は製紙のことだったね』

『ギフトと魔法との違いはよく分からない。だけどまあ、科学からしたら不思議であることは一緒だな。そして、ここにいる少年ネイサンも浄化というギフトを持っているんだ』

『ほおほお。そいつは興味深いね』

『作業をしながらでも会話はできる。ソーダ灰を取って来てもらえるか? 俺はお湯を沸かす』

『了解した』


 ペンギンがよちよちとたどたどしい動きで鍛冶屋の中に消えていった。

 さって、俺は鍋を。

 

「お鍋ならここにあります」

「ありがとう」


 ネイサンから家庭用の土鍋より一回り大きなものを受け取り、川岸で水を汲む。

 水を汲んでいたら、川岸で水車の様子を見ていたセコイアの横にくるわけで、当たり前といえば当たり前なのだけど彼女はこれに興味を持つ。

 

「カガクかの? 何故、ボクに声をかけぬのじゃ」

「いや、真剣に水車の様子を見ていたからさ」

「そらそうじゃろう。宗次郎の案で水車の機構が改良されるのじゃから」

「ん? 改良? 鉄に換装するだけじゃなく?」

「そうじゃ、ギア? じゃったかの。こいつを変えるとか。するとじゃな、発電用の磁石がもっとクルクル回るのじゃそうじゃ」

「あああああ。そうか。こいつはすっかり……」


 あちゃあ。すまん。そしてありがとうペンギン。

 発電ができたことに満足していて、今にも消え入りそうなほどしか発電できなかったことに対し対応策を打っていなかった。

 すぐに気が付いたペンギンが軸受けを鉄製に変える作業のついでに、ギアの指示も出してくれたってわけか。

 俺がセコイアを迎えに行く前にはニューギアの制作作業が行われていたのだろう。


 

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