第28話 職人の二人がいろいろやばい件

 朝食の後、朝の定例会を実施する。

 本日は鍛冶場が完成したので、住宅問題を一気に片付けてしまおうとハウスキーパーのみんなに告げた。

 ルンベルクは鍛冶屋周辺の護衛任務。バルトロには建築作業をしている人たちの護衛を頼んだ。

 アルルとエリーの二人もネラック中央広場(予定地)に残し、領民との折衝役についてもらう。

 

 ん? 護衛が誰もいないじゃないかって?

 そこは心配ない。何故なら俺はもう一人の強者ロリ狐(とアルル達が認めている)と共に行動することにしたのだから。

 本日から住宅問題解決の目途が立つまではこの配置で行くと決めた。

 

 屋敷の外でセコイアロリ狐と落ちあい、彼女を俺の騎乗する馬の後ろに乗せルビコン川へと向かう。


「ええい、暑苦しい。もう少し離れるのだ」

「いいではないか。いいではないか」

 

 後ろから俺にべたーと張り付き、頬を俺の背中にすりつけるセコイア。

 お前はどこのお代官様だよと突っ込みたくなったが、生憎ここは異世界。日本のネタは通用しない。

 

「全く……まあ、それでやる気になってくれるのならいいか」

「ヤル気じゃと! こんな昼間っから」


 ダメだこいつ。何とかしないと。

 分かっているさ。単にからかおうとしているだけだってことは。

 最近の残念ぷりからついつい忘れそうになってしまうけど、セコイアは間違いなくこの世界の賢者といえる者の一人である。

 どれくらいの時を生きているか不明だが、知識欲が図抜けており、理解力・分析力も高い。

 彼女の協力なくしては、「現代知識」をこの世界で体現させることは難しかった。

 端的に語弊を恐れず述べるならば、現代知識(科学知識)において俺とセコイアは一蓮托生なんだ。

 どちらが欠けても実現できない。俺一人だけだと、元の知識が曖昧なこともあり検証方法、失敗の改善に難がある。

 彼女がいれば、その点を補ってくれるから。

 貪欲な知識欲が――。

 

「こらああ。前が見えん!」


 やりたいようにやらせていたら、首に腕を回してこようとして馬が揺れ、彼女の手が俺の目に覆いかぶさった。

 ええい。この際こうだ。

 片手を手綱から離し、思いっきり彼女の手を振り払ってやった。


「落ちるじゃろお」

「セコイアならつま先立ちでも馬から落ちないだろ。たぶん」

「まあそうじゃが」


 そうなのかよ!

 突っ込んだら負けな気がして、ぐぐぐと口元を引き締める。


「時にヨシュア。キミのことだ。ボクが可愛いから随伴させたいってだけではなかろう?」

「もちろんだ。昨日の魔獣……俺は『雷獣』と呼んでいるんだけど、こいつの好物を探したい。他にもカエルの代わりになる素材の調査、いくつかの金属も掘り返したいな」

「雷獣か。いい名じゃの。稲妻を利用したいのかの? そいつは滾るのお」

「だろ!」


 はしゃぐ俺とセコイア。やはりこういうところは同類なのである。

 稲妻といえば電気。

 電気があればと夢が広がりまくる。しかし、雷獣に頼むにしろ他の手段にしろ、発電ができたからといって電化製品が全く無いからどうしたもんかなと。

 いや、電気があればいろいろ利用方法があるじゃないか。


「稲妻を使えば、何ができるのじゃ?」


 ちょうどいま考えていたことを読んだかのようにセコイアが質問をしてくる。

 

「そうだな。例えば、メッキだろ。他には電気分解にも使えるし。まあいろいろだ」

「楽しみじゃ」

「だけど、お楽しみの前に鍛冶屋に行って、その後、住居建築の様子を見てからだ」

「相分かった」


 会話が終わったところで丁度鍛冶屋に到着した。

 

 馬をとめ、よっこいせと馬から降りる。セコイアを降ろしてやろうと手を伸ばしたが、彼女は馬上でぴょーんと跳ねクルリと回転して地面に着地した。

 アルルみたいに身軽だな。さすが狐。

 

「トーレさん、ガラムさん。いますかー?」

「ヨシュア坊ちゃん。三日は自粛と聞いてましたが、橋ですか。橋を進めるのですか」


 勢いよく扉が開き、興奮した様子のトーレが顔を出す。


「橋を建築したいのはやまやまだけど、昨日言った通りまずは住居からだな。それまでは模型でも作って」

「模型ならもう作りましたぞ!」

「え……」

「持ってきてはおりませんが、屋敷に届けておきます。夜にでもごゆるりと見てください」

「う、うん……」


 本気過ぎだろ。

 模型を作っていたらトーレの制作欲が満たされると思っていたが、早すぎる。

 な、ならばこうだ。

 

「トーレ。アルルとエリーが広場にモニュメントを作りたいって計画しているんだよ。橋に取り掛かるまでの間、彼女らに協力してもらえないか?」

「面白そうですな。街の一番目立つ場所に、ですかな」

「うん、ネラックの街の象徴にってね。中央大広場のど真ん中に建てようと」

「ほおおおお。お任せを。すぐに参りますぞお!」


 あ、止めるまもなく行ってしまった。


「全く、トーレは焦り過ぎじゃの」


 そう言ってガハハと笑うガラム。

 彼は棚の上に乗っていたノミとトンカチを弟子に手渡し、顎で「行け」と指示を出す。

 

「ほう」

「分かるのかの。さすがはセコイアだの」


 ん、ノミとトンカチに対しセコイアが感嘆の息を吐いて、ガラムがしたり顔で返している。

 あのノミとトンカチは何か特別なものなのだろうか?

 なんて首を捻っていると、今度は別の一品をガラムが掲げた。

 掲げられたのはノコギリだ。

 随分ファンシーな色をしているな。ノコギリの金の部分がメタリックブルーなのだから。

 ガラムの趣味には見えないけど……彼は派手な色を好まず、無骨な素材そのものの色のままを使うことが多い。

 

「もう一本作った」


 今度は剣だ。刀身が反っていて幅が広い。切ることを重視したつくりだが、厚みをもたせることで頑丈さも満たしたってところか。

 こいつもさっきのノコギリと同じくメタリックブルー。ギラギラしていらっしゃる。

 

「随分と奮発したのお。ガラム」

「ほれ、この地で採掘したものを全て儂のところへ届けてくれたろう。あれを全部使ったところ、この二本が作れたというわけだ。ガハハハハ」

「そのどぎつい色のノコギリと剣って特別製なのか?」


 ガラムとセコイアの間に割って入り、疑問をぶつけた。

 すると、腕を組んだセコイアが頷きを返す。

 

「剣とノコギリはブルーメタルでできておる。さっきのノミはミスリルじゃ。大工道具で希少な魔法金属を使うなぞ、キミくらいのもんじゃぞ、ガラム」

「最低あと10本は欲しいところだのお。斬石剣と切り出し用ノコギリは」

「ガラム。ブルーメタルって鉄より硬いのか?」

「うむ。鉄でもバターのように切り裂く一級品だからのお!」


 力強くドンと胸を叩くガラム。

 そいつはすげえな。さすが魔法金属。何でもありだな。

 

「本来は一流の冒険者が巨大な龍を相手にする時とかに使うものじゃからのお。贅沢にも程がある」


 そう言いつつもセコイアの顔は笑っている。


「ありがとう。ガラム。これからやる大土木工事で大いに活躍してくれそうだな」


 ガシっとガラムと固い握手を交わす。

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