黄昏
黄と青の光が白い壁に反射している。緑の木の向こうは色鮮やかな赤と青の扉。電車が動き出せば、襲うような白い建物が目に映る。
耳元で歌う電子の歌姫は白青の声を。茶色の袋の中には色とりどりのお菓子の袋。
カラフルな世界に、オーバーレイで黄色をかけたような、そんな夕方。
電車の慣性に体を引っ張られる向こう、その先には、まだ見えぬほの暗い明日という大穴が口を開けている。明日は私を待っている。
「当然、明日も生きるんだよね?」
電子の歌姫がそう歌う。
明日も生きるか、なんて、考えてもいない。目を醒ましたら、明日も生きていた。生きるか生きないかなんて、普通の人は考えないのだろう。
椅子に押しつけられるような重力に背を預ける。このまま最寄駅で降りなかったら、私はどうなってしまうんだろう。どうにでもなってしまえ、とは思わないかしら? 明日なんて永遠に来なければ良いと思わないかしら?
毎朝毎朝起きては、生きるのに飽きてしまうのに。日々を延命治療のように生きているのに。電車の走る先、無彩色で無味な世界が待っているのに。
嗚呼、やだやだ、生きるのなんてやだ。ごねて永遠を望む。青に黄色を差したような春の夜空は美しいのに。あと数時間後には世界は黒と白と灰色のグレースケールに染まってしまう。
「じゃあ、死にたいの?」
それも悪くないかもしれない。話した友人の声が残響となって私を包んでいるうちに死んでしまおうか。永遠に閉じてしまう目蓋に、美しい色彩を焼き付けよう。
次は──駅、とアナウンスが伝える。早う帰ってきなさいな。行きは酔、宵、帰りは怖い。死のうだなんて思うだけ無駄なのさ。
この幼い両目が、今も黄昏を映している。
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