第12話 お嬢と奇襲作戦
「奇襲とは面白い!だが、体が大きい我らではすぐに見つかるのではないか?」
「そうとも限らないと思う。夜なら闇に紛れることも出来るから。それに、圧倒的な劣勢はおとり作戦でなんとかなる」
「なんとかなる……のか?あの、狡猾なワイバーンの裏をかけると?」
レギオンは真剣な目でこちら見た。
戦士達も皆息を飲んで私の言葉を待つ。
「なる。まず、巣からワイバーン達を誘きだす。そして、ガラ空きになった所を小回りの利く私が侵入して、長とドラゴンロードを潰すっていう作戦はどう?」
「待て!それはアサコ一人で乗り込むということか!?しかも、ワイバーンの長とドラゴンロードを潰すだと!?」
「そう!これなら誰にも被害がでないよね?」
完璧な作戦である。
力と素早さはワイバーンより私の方が確実に上。
長一体と、ドラゴンロード一体なら、一人でなんとかなりそうだ、と、確信していた。
「許さんっ!お前だけ行くなんて無謀だ。強いのを過信すると大変な目に会うぞ!」
だが、レギオンは頭ごなしに反対した。
いつになくレギオンは苛立っている。
そのあまりの剣幕に私もスロートも、戦士達も言葉を失った。
「アサコを危ない目に会わせたくない。一人では絶対行かせない。どうしてもと言うのなら、オレが一緒に行く」
「レギオン、ワイバーンの巣に入れるの?」
ワイバーンの巣は、想像だけど恐らく狭い。
彼らの体が、ドラゴン族よりもはるかに小さいからだ。
「そんなもの!入れなければ破壊するのみっ!」
レギオンが大きな手で地面を叩くと、綺麗に拳大の穴が開いた。
私より破壊神の名に相応しいのは、きっとレギオンの方だ。
と、ラスタに進言しないとね。
「う、うん。じゃあ、一緒に来て?その方が私も安心だしね」
そう言うと、仏頂面をしていたレギオンの顔色が変わった。
頬は緩み、目尻は下がり、褐色の肌の深みが増す。
嬉しいんだね?
きっとその場の全員がそう思ったに違いない。
「よ、よしっ!では、そのように。作戦は奇襲ということで決定、でよいな?」
レギオンは微笑んだまま、戦士達に決を採る。
戦士達は、互いに顔を見合わせるとレギオンへ向かって頷いた。
渋々という者、心から心酔する者とそれぞれだけど、取りあえずは全員この作戦に賛同したようだ。
「ではそれで作戦を立てましょう。立案者であるアサコ様。どうか、概要を」
スロートは恭しく言い、私に立ち上がるよう促した。
「うん、奇襲するなら出来るだけ早い方がいい。一番いいのは今夜すぐだけど、準備があるなら明日の夜かな」
「どうして早い方がいいのだ?」
レギオンが言った。
「ワイバーン達はたぶんドラゴン族が奇襲を得意としないってわかってる。そのドラゴン族が昨日の今日で攻めてくるとはきっと思わない。今回失敗したことで、ワイバーン達は慎重になってるから巣から動くこともないと思うし。纏めて叩くには早い方がいい……と思うんだけど」
「なるほど。そう聞くと納得だな」
「それじゃあ、簡単に概要だけ。戦士の皆さんは二人一組になって巣穴から奴らを誘き出す。全ての下っ端ワイバーンが誘いにのったら私とレギオンで乗り込んで、長とドラゴンロードを探して戦う、とこんな感じ?」
私の説明は簡単過ぎて、穴があるような気がした。
こちらの戦力、相手の戦力。
地形、風向き、建物の地図。
何もないままでは、細かい作戦を立てるのは無理だ。
「ええと、ワイバーンの数は全部で何体くらい?それと、ドラゴンロードって何体いるの?」
それにはスロートが答えた。
「おおよそですが、三百体はいるかと。ドラゴンロードの数は把握出来ておりません。確認出来ているのは一体のみ。ナターシャの産んだオスだけです」
ナターシャ……それがきっとレギオンの拐われた妹だ。
「三百体か……じゃあ二人一組の隊を作ってもあまりもたないね」
三百体を相手にするには、こちらの戦力は少なすぎる。
巣穴から誘き寄せるだけにしても、多すぎてはこちらの被害は甚大だ。
だけど、体が大きく力の強いドラゴンロードと有利に戦うためには、動きを制限出来る巣穴の方がいい。
「アサコ様、大丈夫です。我らは最強のドラゴン族、その中でも戦士クラスの戦闘力は群を抜いております。三百体は我々を信じて任せて頂きたい」
あからさまに不安な表情をした私に、スロートは誇りと決意に満ちた瞳を向けた。
更にレギオンも加勢に入る。
「そうだぞ、アサコ。我らの力を信じろ。我らは強い。そしてこの戦いも必ず勝つ」
「うん……ごめん。そうだよね、皆はここまでワイバーンを退けて来たんだもん。三百体なんて余裕だよね」
信じられたと感じた戦士達は目を輝かせ、晴れやかに笑う私に同じような笑みを返した。
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