第11話 お嬢と作戦会議
次の日、私はレギオンの寝台で一人、スッキリと目覚めた。
広い寝台を独り占めしたくて、王を力ずくで追い出した……わけじゃない!断じて!
レギオンが中央のクッションで寝ると言ってくれたので、その提案をありがたく受け入れただけの話だ。
ドラゴン姿のレギオンなら大丈夫だけど、人型のレギオンと添い寝は無理。
そんな私の気持ちを知っての提案だったのだと思う。
お誂え向きに、中央にはカーテンの仕切りがあって、引いてしまえば簡単にプライベートな空間が出来上がる。
そうやって私達は昨夜、眠りについたのである。
しかし、そのカーテンの向こうには、今、誰の気配もない。
こんな朝早くから用事?
それなら、ついでに起こしてくれたら良かったのに……なんて考えながら体を起こして背伸びをした。
すると、サイドテーブルに何か布が置かれているのが見える。
何?タオル?
手に取って広げてみると、それはドラゴン族の女性が着ているのと同じ型の衣装だった。
色は黒。
レギオンに合わせたような漆黒の衣装で手触りがとても良い。
たぶん、あまりに私の服が小汚なかったから、気を遣ってくれたんだ。
申し訳なさと恥ずかしさで真っ赤になりつつ、同時に感謝もした。
黒の着物は暴れまわったせいで、ほんのり汗臭い。
何か着るものを貸して貰おう、と思っていたところだったのだ。
サイドテーブルの上には、服の他に水の張られた桶と柔らかそうな布があり「体を拭いて」という心遣いが見える。
私はありがたくそれを使わせて貰うと、用意された服を着て砦の外の高地の方に向かってみた。
曲がりくねった砦内を抜け外に出ると、開けた高地の真ん中に、レギオンや他の戦士達が集まって何かを話し合っている様子が見えた。
「おはようレギオン、朝から何してるの?」
「おお、アサコ!さぁ、ここに来い。これからの砦の守りについての会議だ。この間の襲撃でいろいろ壊されてしまったからな」
レギオンはポンポンと自分の隣の椅子を指し、私を手招きする。
そして、座ったのを確認すると会議は再開された。
「さて、次のワイバーンの侵攻に備えての人員配置の変更及び高台の修理の件ですが……」
スロートが議題を読み上げた。
人員の再配置。
高台の修理。
それは必要なことだと思う。
だけど、私は一つ気になったことがあった。
「……あ、ごめん。ちょっといい?」
「はい!勿論でございます。何なりとアサコ様」
スロートが言うと、戦士達の目が一斉に私を見た。
昨日ワイバーンを倒した私の働きは全員が知るところで、一目置いてくれているとも思う。
でも、ど素人でしかも女が会議を遮るのを良しとは思わない傾向が、この世界にもあるようだ。
その証拠に何とも言えない不快な視線が、私に突き刺さっている。
「アサコ?何でも言え」
「う、うん。あのね……」
私はゴクンと息を飲む。
「どうしてワイバーンの侵攻に備えるのかと思って……」
すると、遠くの戦士から失笑が起こり、こそこそと囁く声も聞こえた。
「アサコ様はお強いが戦には素人のようだ」
「まぁ、仕方ない。女であるし戦略も知らぬのであろうな」
「お美しいが浅慮だな」
と、聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で呟いている。
私にも聞こえたその声が、レギオンに聞こえないはずはない。
怒りに震え、今にも暴れだしそうなレギオンを私は止めた。
「落ち着いて。レギオン、話には続きがあるの」
「……ああ。わかった。聞こう」
遠くの戦士の嫌味はスロートがパンパンと手を打つと収まり、それを見て私は続けた。
「どうしてワイバーンの侵攻に備える必要があるの?待ってる必要なんてないんじゃないかな?」
「アサコ……それは……」
私の問いかけに、レギオン達は首を傾げて不思議そうに見ている。
「襲われるのを待つだけなんてバカらしい。こちらから行くのはどう?数が少ないなら奇襲すればいい、でしょ?」
そう、少数精鋭での「カチコミ」である。
人の少ない皇組が今まで生き残ってこれたのは、個々の武力スキルが高かったからだ。
そして、常に相手に先手を取る。
受け身の作戦を取らないからこそ、四代目の私まで続いたのだ。
レギオンは「ほぅ!」と笑い、自慢気に私を前に押し出した。
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