君を死なせないための一千字

作者 辰井圭斗

88

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★★★ Excellent!!!

 感情を込め、夢中になって歌うことを、絶唱、と言います。もちろん私は作者ではないので、作者の実際の感情を、本心を、知ることはできないわけですが、この作品を読むたびに、絶唱するように言葉を紡ぐ作者の姿は明瞭になっていきます。作者の本心は知りません。ただ私がそう感じただけの話なのですが、すくなくとも強烈な感情を見出してしまった私には、この作品は時に劇薬にもなります。

 読むたび、と書きましたが作者とは別のサイトで知り合った私は、三つのサイトにおいてこの作品に触れる機会があり、多分通読で五回は読んでいると思います。これは別に回数を誇りたいわけではなく、一回でも私よりも丁寧に読み解いてしまえるひとは多いでしょう。数はどうでもよくて、私にとって大事なのは、この作品を読むごとに変化する私の作品に対する感情で、読むのを繰り返すごとに、この作品に言葉を費やすことへのためらいが生まれるのです。私にとってこの作品はどこまでも愛おしい、でもこの作品への愛を語れば語るほど、私の拙い愛情表現によって色褪せていくのではないか、という恐怖にも似た、そんなためらいです。

 それでもやっぱりこの作品は素晴らしい、ということでレビューを書こう、と。

 塾講師のバイトのかたわらウェブ小説を牧伸太郎というペンネームで書いている〈俺〉の自宅に、その〈牧伸太郎〉の名を口にする青年が訪れる。出版社の人間が来たのかもしれない、と一瞬の甘い希望も打ち砕かれ、そしてその人物が黒崎啓一であることを知る。黒崎啓一は〈俺〉の創った半自伝的小説に登場する〈俺〉の生き写しであり、美化された〈きれいな〉面も持ち合わせていた……。そんなメタフィクション的な要素を取り入れた本作には、生き写しであるからこその、強い共感と、そんな相手にだからこそ抱く葛藤があります。鏡と対話するように本音をさらけ出せる相手の存在って、ちょっとした憧れかも… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

今日までこの"空白"を埋めなかったことは意図的か──と問われたら、それは偶然であると云う他ない。あるいはそこまで用意周到であれたなら、もっと他に奏功するようなやり様を見つけることができただろうか。

件の作品において、黒崎は読者がいた事実に包丁を置いたのではない。これまでの小説とこれからの小説を殺す痛みと惜しさに、手離したとき襲い来るであろう喪失への恐れに包丁を置いたのである。

これは──手強い。

もし、あなたが読者の存在に活路を見出す類の書き手であれたなら、これから記すことはもっと単純明快でいい。というより、そんな書き手であれたなら、そもそもこんなものあなたは必要としていない。きっと、欲していない。

「僕自身が僕の作品単体だけで止まるかは疑問」と云ったが、その後に三作も名前を挙げているあたりお察しだろう。もしかしたら、あなたはそこに括られることを拒むかもしれないが、どうかそういう一面についてはもう受け容れてしまってほしい。

止まるかもではなく、止まるのだ。何か──そういうまじないの一つでも、お守りの一つでもあった方がいい。

花。あなたは丹精込めて育てた花畑に火を放ったが、あの方法は実にらしいと云えばあなたらしい。あなたなら雑草のようにそれらを摘み取りはしないだろうと、一輪ずつ手折りはしないだろうと思えたので。

火は、一度点ければ意図せず燃え広がってゆく。炎なら目を背けていたって灰にしてくれる。火中──確かに生身の人間はいたのだろうが。望んでかどうかはともかく、彼らは意図してそこにいた。逃げようと思えば、いつだって逃げることはできた。だから、その点においてあなたが報いを受ける必要はない。

薄氷の上。こんなもの一つの視界に収まっていい画ではないだろうと思いながら、それでも目を背けることだけはできないでいる。「君を死なせない」という響きは秀逸だ。だって、こんなも… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

 面白いように指が進んで、冷やかし程度に覗いたつもりの小説を読み切ってしまいました。短編とはいえ。

 作家さん自身の人生観や読者への作家としてのあり方なども考えさせられます。

 きっと僕らは、二十年経っても三十年経っても、小説を書いているんだろう。読後すぐに、そんな気がしました。