第154話 正しい日本史終了のお知らせ & シム豊後


 今回は大分県の地理的特徴をみながら、大都市を作るにはどの場所が良いか(筆者が)考える思考実験回になります。

 他県の方にも楽しんでいただけるようなるべく情景を記述しますが、わかりにくい部分がございましたらお教えいただけると幸いです。


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「信長さんが尾張を出奔した時点で、まともな歴史は終わりを迎えました」


 さねえもんが頭を抱えながら、不都合な真実を告げた。

 まあ、現代人が戦国時代に来た時点で歴史が変わるのはよくある話だし、徳川家康が桶狭間の後で死んだりとか足利将軍が即終了する話だってあった。

「とりあえず、領民を守れるように防衛を強化するか」

 どこが強い勢力になるかわからないなら、それに備えるしかない。

 毛利が「やっぱり日本統一するわ」とか言い出したり、島津家が鉄鋼船に大砲を積んで襲って来たり、武田信玄が織田信長を部下にして強力な騎馬隊と鉄砲隊をそろえて襲ってくるような某戦国シミュレーションのような状況も万一のために想定しなくてはならないだろう。

 

「なるほど。で、手始めに何から始めますか?」

「豊後のどこかに小田原城みたいな強力な要塞都市をつくろうか」

「それ、たぶん無理だと思いますよ」


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 小田原城は広い平地に商業地すべてを囲い込む中国や欧州のような要塞都市なのだという。

 ゆえに3年籠城しても平気で市民は生活を送れるし、食糧事情に厳しい軍神上杉では落城させられなかった。

 それだけの広大な平地が府内には不足している(大分駅から1km離れた府内城は戦時国時代海だし、江戸時代は舟の荷揚げをする港近くで市街地部分は半分以下の面積しかない)

 さらにいえば、城の周りが高い丘に囲まれているのも問題だ。

 比高30m程度の砦だと、ちょっとした梯子を作って乗り越えられてしまい長大な塀や堀を作っても意味がない。


「もし私が大将なら、大分市美術館(標高77m)の東端に拠点を作って、投石機で500m離れた上原館(標高30m)と町(標高6m)を直接攻撃しますね」

 と、さねえもんが大分県民らしからぬ破壊計画を述べる。

 もう少し郷土に愛着心と言うか、手心をもとうよ。

「え?高い所に登ったら、どこまで攻撃できるかとか考えません?」

 しねえよ。そんな物騒なシミュレーション。

 こういう外道プレイをされないためにも、『縄張り』つまり城を作る場所選びは重要なのである。


 ・・・・・・・・・・・


「と、いうわけで城と町を作るのに適した場所を探してみたいと思う」

 と、各地の領主を呼ぼうかと思ったが、拠点が近くに出来ると言うのは嫌な上司が近くに席替えするに等しい。

 なるべく近寄るなと別の場所を推薦されそうなので、他薦で場所を聞いて回った。

 まず大分川を隔てた東、中津留、花津留は『水流(つる)』が語源となる地名であり、川水がまだ整備されておらず、湿地体を作っている。

 鶴崎踊りでプチ有名な鶴崎も『水流崎(つるさき)』川に囲まれた場所の先端である。

 昭和初期には町として独立できる程度の発展はしているが、大野川と乙津川に囲まれて大雨がきたら洪水のおそれがあるし、朝は時折濃霧がでて周りが見えない。

 港としては最適な土地なので、城なしの平和な時代なら良い土地だが、築城して大都市化するには平地が足りてない。

 その先の大在は遠浅の砂浜湊ですでに7人の領主が自治を行っているし、後ろには深い山が広がっている。今は住宅地だが、埋め立てで用地買収した土地であり今は漁村に近い。


「史実通り臼杵とかどうだろう?」


「あそこは守るには良いですが、大都市にするには平地が絶対的に足りないですよねぇ…」

 臼杵石仏から山に挟まれた川を下り、大分が誇る日本有数の醤油味噌メーカーの工場の右方にある臼杵城は3方を海に囲まれ、入り口も満潮時は海に沈むという天然の要害

 面積はサッカーグラウンド8つ分程度だが、2ヶ月は籠城できる程度の備蓄はあったという。

「でも現在、城の周囲が埋め立てられているという時点で答えが出てるんですよねぇ」

「……そうだよな。臼杵って丘が多くて平地少ないよな」

 現在の臼杵城は四方を埋め立てられ住宅地になっている。

 その状態で人口は4万人。

 市街地以外では漁村があるが、こちらは山がすぐ近くで平地が少ない。

 山を崩して埋め立てても、そこまで人口増加につながるとは言いにくい立地である。

 今も過疎化がすすみ大都市になれるようには見えない。

「シムシティなら、対岸か、無人島の津久見島に原発設置してインフラ用地に割り切れるんですけどね」

 いろいろ危ないネタをぶっこんでくるんじゃないよ。

 とりあえず、拠点は作るが本拠地にするのはパスである。

「さらに南の津久見・佐伯はセメントが取れるという利点はあるものの、戦国時代だと農作物の収穫量が少ないのと洪水のおそれがあるという点で、拠点にはし難いですね」

 江戸時代の『佐伯殿様海で持つ』という言葉通り、マグロやアジなどの魚はとっても美味しいのだが、農業的には収穫が少ない土地な上、地理的に物品も集まりにくい場所なので、こちらもだめだろう。

 別府は12万人ほど住人がいるが、1596年に火山の噴火や土石流の恐れがあるので発展させるたびに『自分が死んだ後、どれだけの領民が犠牲になるんだろう?』と悩むのは勘弁したい。


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「平野が多い場所が良いのなら大野郡とかどうだろう?」

『大野郡』

 大きな平野につけられた日本全国にある地名の土地だが…

「だめですね」

 いきなりのダメだしされた。

「大野川上流は渓谷みたいで、朝地町の血田だと水車も使えないほど高低差が高く、川はあるのに水不足という状態で明治まで苦しんでますし、逆に下流の犬飼は1993年まで洪水に苦しむ土地でした」

 極端すぎる土地だな。

「じゃあ、竹田と宮崎と臼杵と大分の交通の要所、三重町はどうだ?」

「交通の要所なのに、そこまで発展してないのがすべてですね。(※人口比較での話です)」


 まあ、いろいろ検討した結果、大分の場合

 ・近くに川があり水道をかくほできている。

 ・交通に便利な場所である。

 ・人家を建てやすい平地が多い。


 という条件にかなう土地が発展しやすいらしい。

 中には木浦鉱山みたいな特殊例もあるように

 ・仕事がある

 というのは必須条件だが。


 ただ、川に近いと水害が多い

 交通に便利だと敵も攻めやすい。

 というデメリットもある。


 これらの条件をある程度満たすのは、竹田市の岡城である。

 比高70m近く、その殆どは断崖絶壁。

 入口以外の進入はまず不可能。

 一方向にのみ城下町を作ればよいし、多くの川があるため水量も十分。

 

「ただ、ここは中心地となれない致命的な部分がありますね」


 内陸部で海に面してないため、水運が使えない事だ。

 舟なら1の労力ですむ運送が、陸路だと10にも100にもなる。

 地産地消できるだけの地力はあるが、トラックが無いと発展させるのは難しい。


『あきらめたら?』


 心の中の安西先生が試合終了を告げた気がする。


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「だったら、高城の護国神社から明野あたりが良いんじゃないですか?」


 とさねえもんが言った。

 あまりにも大分ローカルすぎる地名なので説明すると、大分駅から大分川を越えて東に進むと高城駅という駅がある。

 駅からでると新日鐵工場まで一直線の道路があり、右には鶴崎工場地帯へ行く道があり、朝は通勤の車で混雑する場所である。

 その北には丘があり、護国神社や、その先には明野団地という、決まった形の公営住宅地が数十単位で林立する団地がある。

 明野団地だけで9,385世帯人口22493人。

 開発面積185万m2

 東京ドームなら39個分ある。

 さらに言えば、比高60~90m位の丘で、通路が少ないから1時間ほどの大渋滞をいつも起こす問題地という点である。


「平地じゃないじゃん!!!あれじゃん!!!」

 近くに海は有るが、ビルにして20階分の高低差が平地との間にある。

 上り下りするだけでも大変である。すると、さねえもんは

「だから、丘を登る必要がないようにするんです」

「は?」

「つまり、あの広大な台地の端に城壁を設置し、27kmの長い塀を作り、大きな城郭にしてしまえば、わざわざ降りる必要がないじゃないですか」


「お前はいったい何を言ってるんだ」


 そういう、規模を無視したハッタリをかますのは俺の役目だろう。

 そう思った。

 

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 小田原城に観光に行った時、「これお土産に大分に持って帰りたいな」と思った事があり、いつかは大分に小田原城を作りたいと思っていましたが、ここ位しか立地が思いつきませんでした。

 あの公営住宅地を全て城にすれば、観光地としてワンチャン有ったかもしれませんね(妄言)

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