第144話 戸籍制度の復活
元々戸籍とは奈良時代には存在したのだが、長い戦乱で失われた古代遺物のような存在だった。
それでも問題なかったのは、人間の管理は戦力の把握や税金の取りたての基本情報であり、その土地の権力者が把握していたからであろう。
それが豊臣秀吉の時代になって太閤検地と言う形で整理され、江戸時代になると村人は必ず寺の檀家となり、寺社の作成した人別帳や宗門改帳や過去帳などで把握されるようになる。
逆に言えば、大名でも部下の領民を把握するのは難しかったりする。
「荘園(個人の庭)という治外法権があるから、寺とかはもっと大変でしょうねぇ」
寺は脱税の為に情報を秘匿する事が多い。
だが、正しい情報を把握するのは計画を建てる上で大事だし、他国のスパイを見つけるのにも楽である。
何より、身元がはっきりしていると犯罪を起こす確率が減る。
税金の取り立てに誤魔化しが効かなくなるし、為政者としては必要な制度なのである。
「ただ一つ問題があるとすれば、領主にはメリットが少ない点ですかね」
国が領民一人一人を把握できると言う事は、領主が中抜きピンはね不正をおこない難くなるという事である。
おそらく、実際の人数より過少に報告して兵士の協力を少なくしたり、年貢をちょろまかしている人間もいるだろう。
「ここを無理に押し付けると、反乱が起こるかもしれませぬ」
賭博は禁止のはずの日本で、何故かパチンコ屋が繁盛しているように、違法でも見て見ぬふりをしなければならない事が日本ではまれに良くある。
「だったら、急に不正を取り締まるのではなく5年くらいかけて誤魔化す時期を与えればよいのではないですか?」と家臣(名は伏せる)たちが言う。
……まあ、正直に申告していた人間は得をして、不正をしていた人間は少し損をするように、前々から申告のあった人間や土地に関しては税金を安くして、申告隠しをしていた分は税率そのままとか、新しく入った人間扱いしてバランスをとる事にしよう。
だから5年以内に不正をしっかりかくしておけよ。お前等。
「ついでに他国の密偵らしき人間も影で処分しておきましょう」
さらりと恐ろしい事を忍びが申告する。
「いや、こちらの制度は他国にも広めて欲しい部分はある。だから国内に居座る人間は退去させるが、行商人や山伏に化けている人間はあえて泳がせておいてくれ」
こちらの目標は日本全国の近代化である。
こちらから押しつけるのではなく、他国が真似して自発的に動いてくれるならそちらの方がよい。
戦国と言う時代は人が当たり前のように死ぬし、流民は多い。
そのため記録はなおざりになっているが、国を糺す根本は一人一人の記録からである。
豊後国民になると、色々と手続きをされる代わりに保護や権利も与えられる。
こうしたイベントを通じて人は一人一人特別な存在であると認知させ、将来的には基本的人権にまでつなげたいものだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「とまあ、こんな感じでこの国では民衆の意識を変えるように舵をとりました」
と、いままで豊後に滞在していた
国の運営方法と管理法。
この二つがあれば選挙制度を行っても、そこまで問題は無いだろう。
人権というものがどこまで伝わったかは不明だが、坊さんにも不満を持つ彼らである。人間は生まれながらに身分などないという考えはこの時代の誰よりも理解しやすい存在であるだろうし、それを見込んで少し計画を早めたのだ。
「是非とも畿内で、この制度を実践してくだされ」
そう、期待を込めた目で2人に告げた。
あとは、彼らの問題である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます