第109話 芸術は癒し。技術は機密。

ついに20万PVの大台に到達しました。

皆さまのおかげです。誠にありがとうございます。


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 人間、多少給与が低くても「先生」とおだてられて働ける環境というのは非常に居心地がよい。

 とある新規開店旅館さんの宿帳と売り上げを1月分自動集計出来るエクセルデータを昼飯代で作成したことが有ったが、「パソコンの先生」と言われて非常に気分良く仕事が出来た。


 …………まあ、そのあとに怪しいコンサルに過分な報酬払っててやる気がダウンしたのだが…。


 まあ、それくらい人間というのは褒められたり丁寧に対応されることに敏感な生物である。


 なので、教師待遇でお迎えしたら10人の先生が召集に応じてくれた。だが

「あのような異人に無駄金を払ってどうするのです!」

 と彼らに対して高級を払うことに家中からは文句が出た。


「では、窯は?炭は?土の精製方法を知っておるのか?」


 と聞くと言葉に詰まった。


 確かに実験を繰り返せば模倣品は出来るだろう。

 だが、それには多くの研究員と長い研究期間が必要だ。

 10人に任せて1年で完成したとしても、その間 商品を販売できたはずの時間が無駄になる。


 おまけにそれだけの資金を投下しても成功するとは限らない。


 それを10人分の給料を払えば、完成品が出来る上に必要な設備も作ってもらえるのだ。これが自分たちで見よう見まねで1からやってたらどれだけ試行錯誤しなければならないのか、想像もつかない。


 明治時代に御雇い外国人と言われた技術者が高給で雇われたのもそれが理由だろう。他人の高い給与は許せないと思う人間は妬むが、技術を買うと言うのはそれだけ

の価値があるのである。

 そりゃ先生扱い位して来てもらうべきだ。

 

 ただ、あまりへりくだりすぎて調子に乗られても困るので、応対は家臣に任せた。

 一万田に。


「いいかげん一万田殿の扱いを改善しませぬか?」

 と大友四天王(3老+2老である、吉岡 吉弘 臼杵 ベッキー)から言われたが、まあ休暇のつもりで数ヶ月だけ行ってもらおう。


「あともう少しで1553年の閏1月ですもんね」

 と、さねえもんが小声で言った。

 

 そう。一万田が裏切る予定日なのだ。


 この対策として、大内氏を滅亡させず、大友八郎晴英くんを山口に送らなかった。

 これに付随して山口に行ったといわれている一万田の息子(将来の裏切り者 高橋鑑種)はこちらの監視下に置けている。

 また、将来の宗麟の嫁とも言われ、彼女を略奪するために一万田を殺害したなどといわれた一万田の奥さんとは会ったこともない。

 そして一万田は対馬に奥さんごと送り出した。

 これで反乱を起こせるなら起こしてみろと言う訳である。


「フラグはすべてたたき折った。反乱予定日よ、来るなら来い」

 でも、できるなら来るな。

「ジャイア●リサイタルを前にしたアニメの猫型ロボットみたいな事を言わないでくださいよ」

 と言われたが、さねえもんは命を狙われてないからいいよ。

 将棋だって飛車や角は取らなくても終わるけど、王だけは取って終わりなんだもの。

 必 死 な ん だ よ 。 こ っ ち は 。


「でも、歴史って修正力があるとかいいません?」

 修正力?おいしいの?それ。

 食べたことがないからわからないね。

「ほら、歴史って言うのは道筋が決まっていて、多少誤差を出しても結果は変わらないってやつですよ。SFとかでタイムスリップすると良く言われていた奴です」

 まあ、そいつら実際に時間移動なんてした事ないだろうしなぁ。

 それに、それなら人とは無関係のダニとか、たくさんの星々とかその他宇宙にあまねく全ての事象も放置してれば同じ方向に向かうと言うのだろうか?

 そして、人間たちの行動とはそれほど規則正しく理論的に決まっていると言えるのだろうか?

 世の中はそこまで人間中心には出来ていないだろう。

 よほど人間は特別な存在だと思ってないと思いつかない理論である。


「というわけで人事を尽くして一萬田を対馬におくろう」


 そんなわけで対馬の監督者は決まった。

 豊後では八郎君が担当だ。

 欧州では陶磁器の技術を守るため、技術者を一生 塔に監禁したと言うのだから島の方が情報漏えい防止に良いし、陶磁器は我が国の基幹産業になるだろうから、次のいけにえである八郎君も良く知っておくべきだ。

 

 ・・・・・・・・・・・・

 とまあ、そんな判断は説明できないので

「それに一万田は対馬に送られて、かえって喜ぶだろうよ」

 とだけ言った。

「はあ?」

 肥前から今度は対馬に島流しされているのに、なにを言ってんだこいつ?

 と言いたげな顔で四天王たちは顔を見合わせた。


 まあ、そう思うよね。でも疲れた人間にはこの人事、そう悪くは無いのである。


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 数日後、対馬では

「おおおおお…、流石は井戸の茶碗。このカイラギの美しいこと…」

 と某ひょうげもののような感想を述べていた。


 大友興廃記には『大友宗麟公花見;雉の事』という話で 


『豊後大野郡鳥屋城主、一万田宗慶は鳥屋の麓の屋敷に普段は居住し、前代より馬場に色んな名花を集めたが、その中に珍しい黒染めの桜があった。武勇の余日の慰めで、貴賎問わず集まり和歌の種としたり酒宴をした』 という


 ようするに一万田家は風流を解する家で中々の文化人だったようだ。

 なので、日本で愛用された井戸茶碗の制作管理を任されて興味を示さない訳がないと踏んだのである。

 特に井戸茶碗は「一井戸 二楽 三唐津」と言われた程の名器。

 金の延べ棒とか、ダイヤなど宝石の製作工場のような、完成品=美術館になるような芸術の宝庫である。

 おまけに有田焼の様な未知の美しい品もこれから作る。

 激務で精神的に参っている一万田にとっても奥さんに取っても非常に良い癒しとなるだろう。

「俺もゴミみたいな現場をおしつけられて精神的に参って会社辞めた時に、お高めのプラモとかゲームに囲まれて精神科が回復したし、美しい芸術品に囲まれたら激務の疲れも癒されるんじゃないかと思ったわけさ」

 なにも憎くて対馬に送ったわけではないのである。


「………良い上司みたいに言ってますが、精神を病むほどの現場に放り込んだ人が誇らしげに言う事じゃないですよね」

 そんな幻聴が聞こえた気がするが気のせいだろう。


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 本作はキングジムのポメラという入力装置で打ち込んで、パソコンにデータを移送する(投稿後 誤字脱字を修正する)という執筆体制だったのですが、ポメラの留め具などが壊れたのでセメダインで固定しました。

 なのですが、「う」のキーだけ留め金が壊れて入力が難しくなりました。

 本編で変な言い回しがでた場合、「う」列を使用したくないんだなと、なま暖かい目で見ていただければ幸いです。


 …日本語って「あいえ」は頻繁に使用しても「う、お」はあまり使用しないんですね(外国の人名、固有名詞をのぞく)

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