第108話 冷遇されている技術者を高給で引き抜いてみた話
私事ながら、キンドルで『立花記の翻訳と検証』という本を出しました。
主役はベッキーこと柳川藩立花家の藩祖 戸次道雪が死ぬまでの話で、編纂者は4代目当主 立花鑑虎です。
読みがたい文体を現代語訳しました。興味のある方はご一読いただければ幸いです。
この本が活字化される事は、これ以降未来永劫無いでしょうから。(それ位読み難い本だったので)
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「さて、材料は確保できたが次は造り方を考えよう」
土は確保出来たが、それだけでは陶磁器は作れない。
竈からロクロなどの制作技術が必要だ。
だが、そこら辺の知識は皆無。0である。
「陶芸教室とか行ってたら良かったんですけどねー」
それをやってても1から作るのは無理だと思うなぁ。
「まあ、これに関しては布石を打ってるから大丈夫だ」
「まあ、そうですね」
さねえもんも分かっているようで、船を対馬に向かわせた。
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「えっ?10倍の扶持を出すから朝鮮から陶工を集めて欲しいですって?」
今まで奴隷貿易の拠点だった対馬の宗氏に依頼を出す。
朝鮮半島では儒教が主体な為、肉体労働者や手工業者の身分は軽視されていたという。それゆえに日本では珍重された井戸茶碗の制作者の名は残っていない。というのが今のネットの意見である。
これは別に特殊な事ではない。
現代でも何も生産しないクソコンサルタントや「壊し屋」などと言われるリストラ得意な経営者もどきが偉そうに書籍などを出しているが、実際に会社を支えている技術者や現場作業員の名は残らないようなものである。
苦労して技術を学び、手を動かしても金持ちが適当に現場を掻きまわして台無しにして金だけ奪っていくというのは人のやる気をなくすには十分すぎた。
そのため不景気な時代に、経営陣が自分たちの給与を守るため技術者の待遇を悪くしたり解雇したら、技術者たちは高待遇で外国に引き抜かれ技術を伝授したため日本企業にとって強力なライバルとなったという笑えない話がある。
「だから、その現代の故事を利用しようと言うわけだな」
待遇が悪い相手に高待遇を出して技術を根こそぎ買うわけである。
俺は窯の造り方や土の精製、陶磁器の焼き方は全く分からない。
だが、分かる人を金で雇う事はできる。
交通が発達していない時代では、異世界チートは金で買えてしまうのである。
しかも安価で。
「それでしたら、明の方が良いのではないですか?」
と宗さんが言う。
この時期、朝鮮では粉青沙器という茶色がかった、光沢はあるけど白磁に比べると美しくない陶磁器が主流だったと言う。
それに対し、明では早い時期から白磁が作られ、色合いも華やか。精緻な絵は素人が見ても分かるほどの美しさだと言う。
「だが、明の方は官営の窯を使っている力の入れようで、技術者も優遇されているであろう」
花形産業のエースたちは金を積んで「来てくれ」と頼んでも断るだろう。
だが、待遇に不満のある相手なら勝算はある。
失われた30年と言われる日本の停滞期を作り上げた、日本の経●連など、パソコンも使えない無能経営者たちが、貴重な技術者をあっさり手放すと国がどれほど衰退するか、イヤと言うほど教えてくれた教訓である。
そんな骨身にしみた技術者冷遇の時代の経験から、引き抜きは容易ではないかと言葉を変えて説明したのだが
「それでも、生まれ故郷を離れるとなると難しいと思いますよ」
と、今まで奴隷貿易を扱い、故郷から引き離していた宗さんは言う。
「いえ、やまと言葉は独特すぎる言語でございますし、あちらとは食文化も異なります」
おまけに職人は保守的で、給与が良くても来る人間はいないかもしれない、というわけだ。
それはそうだ。
互いの需要が一致しているならとっくに技術者は日本に来てるだろうし、定住者もいるだろう。
かつて渡来人と言われた人が継続して入ってこないのも、何か理由があるのだろう。俺だってちょっとやそっとの好待遇で呼ばれても、外国に行くのはハードルが高い。
だが、これに関しては二つ条件を付けた。
一つは『作業場所は豊後か、この対馬とする事』
帰ろうと思えば、手軽に帰れる距離で作業をしてもらう事で短期出張のような気分で働いてもらおうというわけだ。
幸い倭寇は取り締まったし、外交の扉は少し開きだした。
珍しい
これは産業の無い対馬にとっても悪い話ではないようにする。
対馬には場所を提供してもらう代わりに食料や白磁の売り上げの一部を上納する。
材料と技術者を輸入して加工品を余所に売りさばく拠点とすることで財産が落ちるように仕組みを作るのだ。
「1970年代の日本みたいに加工貿易の拠点にするわけですね」
とさねえもんが言う。
資源が無い国は観光か技術加工で財産を築くしかないのからね。
そして、もう一つ、こちらが本命なのだが条件を言う。
「日本に来てもらった暁には「先生」として技術者に教えを請いたい。と伝えてくれ」
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