第85話 気分はもう戦争ではないのだが、現実はがむしゃらに来る
衣食住の戦国文化破壊はある程度着手できたので、今まであまり触れてなかった分野。軍事へと進んでいきます。
どうなるかは作者もわかりません。
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「おじいちゃんは言いました。『戦いは物量だよ兄貴』と」
「それ、絶対に嘘ですよね」
脚色はしたけど、嘘じゃないぞ。
日出生台で椎茸を作っていた祖父は第二次世界大戦のみぎりにフィリピン方面に出てアメリカ軍の捕虜になった。
戦争中の事はいっさい語ることは無かったが
「降伏してもらったチョコレート。それが満載された食料庫を見て『勝てるはずがない』と思った」事だけは話してくれた。
食糧補給も出来ず弾薬にも事欠く有様で、補給のしっかりした相手と戦って勝てるはずがない。
窮乏した陣地で生き延びた人間の心からの言葉だったのだろう。
あの頃の総力戦に比べたら戦国時代の戦いなど児戯に等しい。
スパイクもない。手袋もない。一部の兵に武具を貸して、ろくな訓練もなく戦うだけとか戦争をなめているとしか思えない。
だが、それ以上に生活基盤を整える方が重要である。
この時代は食料自給率が低い。
おまけに医療も未熟だから死亡率も高い。
なので衣食住の充実を目指すべきなのだ。戦争なんてやっている暇はないぞ。
…そう思っていた時期が僕にもありました。
しかし
「御屋形様!宇佐の豪族たちが国東に乱妨(=略奪)を働いて来ました!!!」
厄介ごとは余所からやってくるのである…。
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今では大分県の一部となる宇佐だが、当時は豊前という国分けで別の国とされていた。
まあ国東も大分市や杵築とは微妙に文化圏が違うと見る郷土研究者もいるし、山で分断されると『余所の土地』ってイメージが強くなるのかもしれない。
ちなみに1550年代の宇佐は大内家の領地で、大内義隆さんが宇佐神宮に寄進して感謝状をもらっていたりする。
そんな大友家にとって敵地である宇佐だが、大内との同盟でしばらく戦いはなかった。
ところが大内家が崩壊したので統制がとれず、一部の領主は領土拡大を狙って戦争を始めたらしい。
「戦力的に、勝てるはずのない相手に何で逆らおうとしてんの?こいつら」
と疑問をぶつけて見る
「3つの可能性が考えられますね」
1つは食糧不足。
領民が飢えるのが確定ならば食べ物を略奪しないと生きていけない。
2つは強力なバックが付いた場合
豊前は大内の家老 杉氏が守護代としておさめていたっけか。
ということは、陶と手を組んで攻めてくるのか?
いや、陶は国内の統治に手いっぱいで、大友家と戦う気はまだないはずだ。
敵対する誰かと組んで来たか?
そう思ったがまだ大きな勢力となってない現在。大友家と敵対する意味がない。
となると残る答えは一つ
3 こちらが手を出せないと思って私欲で略奪に来た。
2国の大名である大友家に一地方の豪族が反抗すると言うのは普通考えられないが、結構 豊前と肥前は反乱がおこる。毛利と言う後ろ盾がいたときもそうでないときも。
まるで、万引きをしたら警察を呼ぶぞと通告しても本気と思わず、実際に警察を呼んでから焦るようなアホしぐさで人生を生きているやつのようだ。
そんなアホのせいで戦争が始まる時もある。
そして、そんなアホを放置していると言うことは他の宇佐の領主はこちらの手腕を見ようとしているのかもしれない。考えすぎかもしれないが。
まあ、どちらにせよ
「御屋形様が武芸に身を入れないから、このような事態になるのですぞ」と怒り出す豊後領主が出るのは確実だった。悪い事が起こるたびに何でも統治者の努力不足だと糾弾する奴ら。だったら武芸に身を入れてるお前らを最前線におくってやろうか?
などといえば急に自己弁護するから無意味なのは想定済みだ。なので
「わかったわかった。とりあえず討伐隊を20人送り込んどくから楽勝だろ」
「たった20!」
領主が憤慨する。
「ああ、田舎の反乱。それくらいで十分だろ」
そう告げると用は終わったとばかりに俺は退出する。
入田討伐に肥後討伐で無駄な食料や労働力が多く費やされた。成長予定の大友家にこれ以上無駄なリソースはない。なので出せる人数は20人。
それくらいで十分なのだ。
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宇佐は南部の険しい山々から堆積した土砂で広大な平野を形成している。
全国に4万社あまりある八幡様の総本宮で、八幡大神(応神天皇)・比売大神・神功皇后をご祭神にお祀りし、神亀2年に創建されていた宇佐神宮のお膝元として発展し『宇佐36人衆』と呼ばれる豪族たちが割拠している土地だ。
今回の件は、その豪族の中でも下っ端に属する一族が小遣い稼ぎ程度に始めた狼藉だった。
下っ端といえども家臣は200人に4カ所の砦を持つくらいの武力はある。
彼らはゲリラのような山地での戦いと複雑に絡んだ力関係の中に埋没し、大友家の追求をかわせる自信があった。
その自信とは『神社の加護がある宇佐に攻め込み乱暴狼藉など働けないであろうし、仮に軍隊を出せば、侵略行為となるため宇佐36人衆はすべてが敵となる』というものだ。
実際、史実の宗麟が陶晴賢滅亡後、大内家に行った弟が毛利によって滅ぼされそうになった時『弟の命より茶器がほしい』と宗麟が言ったというねつ造話が現在でもまことしやかに話されているが、実際のところ大内家の支配を脱した『豊前の悪党どもが蜂起』したため救援を送る通路が塞がれていたり、守護代である杉がいるので、彼の職分を侵さないよう判断を任せていたようである。(先哲資料 大友宗麟386号)
茶木の逸話は、おそらく茶器の価値も知らずに売却した毛利家が見る目のなさをごまかすために嘘を付いたのではないかと思われる。(大分県人の逆襲)
そんな比叡山のごとき仏神を人質にする戦法をとっていた豪族だが、今日も国東の境を略奪に向かっていた。
すると、そこに見慣れない侍が20人、
「あいつら、火蓋も切っておらん。油断しておるようじゃ」
火縄銃が日本に伝わって8年。
高価な品ではあるが日本でもある程度知られていた。
あれを発射するには火薬を込め、鉛玉を込め、縄に火を付けて、火蓋を切って引き金を引き火薬に火を付けることで発射が出来る。
この準備に熟練したものでも30秒はかかる。
おまけにライターの無い時代は種火を常に燃やし、それを配る火の係がいた。
それを考えれば彼らは最低でも1分は銃が撃てない事はわかっていた。
腰に刀を刺してはいるが槍は無し。鎧も付けずに銃だけを持つという不用心な格好だ。
周囲に兵が隠れるような場所もない。
20丁も銃を奪えれば今いる50人で分けても一財産ができる。
そこまで計算が済むと豪族の一段は農家から侍たちに狙いを変えた。
「おい、お前等。10人で迂回して後ろをふさげ」
「へい」
手慣れた手つきで移動する一団。
残りの40人は姿が見えないように這って動き、矢で奇襲をかけたら突っ込む。
それと同時に迂回した奴らも声を上げはさみうちにするのだ。
数で劣るうえに2手に分かれて戦うとなると大抵の集団は動きが止まる。
刀で応戦するなら矢で、鉄砲を撃とうとするなら数の暴力で蹂躙する配置。これ以上無いくらい完璧な布陣である。
『豊後侍とはこの程度か』
これから襲われようかというのに警戒もせず、むきだしの銃だけを持っているでくのぼうが20人いる。
そう見えた。
「キィアヤヤヤアアアアア!!!!!」
相手を威嚇する雄叫びをあげる。
それと同時に射手は立ち上がり矢を射て、兵士は突撃を敢行した。後ろからも雄叫びがあがり豊後の侍は為すすべもなく襲われる…はずだった。だが
ターーーーン!!!
「ば…かな…」
数少ない国東の平野に銃声が響く。
豪族は目を疑った。
撃てるはずのない銃を構えた侍たち。その先には胸を射抜かれた味方が信じられないものを見るような目で、口と胸から血を流している。
動きの止まった野党の別の群に狙いを変えると、そのまま何の玉込めもせずに2発目が放たれた。
「あれだけ技術を発展させたんだ………欠点だらけの銃を改良してないはずがないだろう」
国東から遠く離れた豊後の地。
ボタン一つで人を簡単に殺せる装置を導入した事に強い後悔と諦めを込めて、そう言った。
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