第73話 お米至上主義、お米経済の国 日本

 単純にして深刻な誤算


 米がない。


 大名を初めて一年。予想以上に米の消費量が多いのである。

「変だな…4人家族のご家庭で消費する米を一日五合として半年はいけると計算していたんだが…」

 というとベッキーから

「は?ですぞ」


 とあきれ顔で言われた。

 さねえもんを見ると、アチャーという顔をしている。どしたん?

「…そういえば、この時代の日本人は米を異常に食べるんでした」


 仕事中はストレスで昼飯も食えなかった小食な俺と、同じく4人家族で寿司屋へ行っても3千円で収まる小食なさねえもん故の勘違いだった。


 とある『図説 戦国女性と暮らし(学研)』という本のP62~64によれば戦国時代の武将も現代人も一日の消費カロリーは約2600kカロリー。

 ただし、その内訳は大きく異なりカロリーに占める米の割合が現代人は25%。

 一日でどんぶり2杯程度なのに対し、戦国武将のカロリーは、ほぼ100%。

 朝食と夕食の2回だけで玄米が5合。

 しかも質祖倹約をむねとするためかおかずが少なく、ちょっと野菜と汁が付くと贅沢と言われたらしい。ここまで栄養バランスを無視されるといっそ清々しい。

 豊後では冷凍魚を流通させているので少しはマシだがそれでも現代人の3倍は米が消費されている事となる。

「戦争になると倍の量を食べてるそうです」

 食料を手に入れるために多くの食料を消費するって本末転倒じゃね?どうりで去年の熊本遠征、米の消費量が多いと思ったんだよ。

「そういえば殿と斎藤さねえもんは2合しか食べとらんでしたな」

 と吉岡が言う。

 いや、 じゃなくて2合だからね。

 ちゃんと野菜とか魚とか卵みたいな栄養素も取ろうよ。


 主食は米。税金は米で、金融も米相場。米のみ。

 まさにお米の国日本。


 米ばかり食ってないで野菜も食えよ。(願望)


「さらにいえば、堺で米価が安定したことで、越後や甲斐からも米を買いに来ているようですよ」追い打ちで、さねえもんが不都合な真実を告げてくる。

 …豊後は北海道ほどの生産力はないんだが…。

 まあ、越後で米不足が解消されれば関東に出稼ぎへ行く回数も減るか。


「…兵糧を確保できたので反乱討伐の兵糧となったそうです」

 人の善意を最悪な形で返すのやめてもらえます?


 1550年に当主となった長尾景虎こと上杉謙信の部下が丁度反乱を起こしたらしい。

 他の国も食糧難救済というよりも合戦準備で買いこんでる状態との事。

 この世には神も仏もいないらしい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 というわけで、副菜や麦などの米以外の飯を食べるように食生活を変革しないといけないが、食事の際に野菜の割合を増やすように通達した所、

「米を食べないとメシを食べた気がしない」

「米は食の基本」

「お好み焼きはおかず。ご飯は必須」

「来る日も野菜、来る日も野菜?俺は虫じゃない」

 としまいには松本零士先生みたいな事を言われた。


 まあ、俺もおかずだけじゃご飯食べた気はしないし気持ちは分かる。

 ………だが5合は食べ過ぎだろおぉぉぉぉ!!(魂の叫び


 米取引のおかげでお金は儲かったし、各地の特産品は手に入ったが米価格は下がらないので米の『売り』ばかりで買えない『金はあっても米だけがない』という本末転倒な状態になっている。

 …金はあるのに、食えねぇってのは可笑しな話だな。(byワンピース)


 売り上げアップの為に残業とか休日出勤させたら予想以上の労務費や外注費を請求された某グレー会社の社長みたいに今の俺の顔色は南国の海のようにトゥールブルーになっている事だろう。


「そんな冗談を言えるなら余裕がありそうですね」

 冗談でも言わないとストレスでつぶれそうなんだよ。



 日本人の食への執念は強い。

 とある小話で『外国人が「日本人はどんな事をしても怒らなかったが、ご飯に関する事では激怒した」』と言われるほどだ。


『金は入りました。お米はありません』などといえば確実に即日一揆と謀反と反乱が起こるだろう。

 やばい、何とかしないと。


 とはいえ、誰もがほしがるから売れるのである。

 予想以上に日本には米が足りてない。

 無い物は買えないし収穫までは半年の期間がある。

 ……これ詰んでね?


 悩む俺にさねえもんは

「だったらインディカ米を輸入すればいいんじゃないですか?」

 と言った。

「インディカ米?」

「1993年に日本は冷害によって米が不作となったんですよね?そのとき日本政府はタイからジャポニカ米とは別の品種の米、インディカ米を輸入しって聞きました」

 へー。


 君、いったいいくつだ?


 俺でもまだ生まれる前の話だぞ?

「近代史も勉強しましたので」

 そっかー2000年以降の生まれだと二〇世紀は近代史という研究対象になるのか…(絶望

「宣教師さんたちもマカオで中国から食料を買ってたというし、余剰米はあるかもしれないんです」

 そうなんだ。一種の光明が見えた。

「まあ、江戸時代にも輸入したけど乾燥してパサパサしてると不評ですぐに輸入されなくなったそうですが」

 だめじゃん。

「インディカ米はチャーハンとか炒めるのに適したお米なんですよ?じゃないですか」

「あ、そっか。そりゃいいな」

 塩はあるし、醤油まで作れたら味付けは可能だ。


 でも、パラリとしたチャーハンって受け入れられるかな?

 唐物ブランドでも普及しなかった米なんだし、日本人の食って頑固だから、何か工夫が必要な気がする…


「だったら、粘り気は外注すればいいんじゃないですか?」

 外注?

「塩だしで味付けした片栗粉の溶き汁とかあんかけチャーハンとかで『外付けの粘り』を付ければ同等になりませんか?」

 日本人は食感にこだわるけど、豆腐ハンバーグみたいに見た目が似ていると結構だまされる。らしい。

 某包丁人料理マンガでやってたという。

「ついでだから、別の救荒作物も流行らせましょう」

「別の救荒作物?」


「タピオカですよ」


 ちょっとまて。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ナウなヤングに受けてたタピオカミルクティーの材料が何で救荒作物なんだよ。

「あれはアメリカ原産のキャッサバかインド原産のタロイモを粉にして団子状にした物に黒で着色したものなんですよ?」


 何でも平成時代にブームとなる前から某グルメ漫画の45巻あたりでタピオカは紹介されていたという。

 そのときは透明っぽい白のデザートと紹介されたのだが、特筆すべきはそのカロリー。

 100gで約450kカロリー。6個もあれば日本人の必要カロリーは十分確保できる、かなりの高カロリーでダイエットの敵。

 逆に言えば食糧難の心強い味方である。

「あちらのほうだと勝手に生えてるくらい繁殖力の強い作物みたいですし、頼めば売ってくれると思いますよ」

 知らなかった。

 サツマイモやジャガイモ輸入の前に、こちらを仕入れるか。

 まあ現代日本でそこまで主流ではないなら栽培に関しては気候的な問題があるんだろうけど、当面は食料確保だ。珍しい南蛮団子とでも説明すれば1カ月くらいはブームになるんじゃないだろうか?豊後料理、団子汁に混ぜてもよさそうだし。

 今度こそ光明が見えてきた。

 金ならある。買えるのなら多少高くついても金に糸目はつけない。


「ただ、ひとつだけ問題が…」


「交換する品物は何にしましょう?」


 ……………………………タイの方が欲しがるものって何だろう?


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来週までには調べて置きたいと思います。

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