第72話 買い占め転売ヤーは社会を崩壊させる
本作は20XX年に転移した人間によるお話です。
現代社会を踏まえたライブ感を味わっていただけたら幸いです。
ついでに大友宗麟が置かれた状況を見て「こんなブラック職場で働いたにしては まあ頑張った方だし、離婚して宗教に逃げるのも仕方ない」と再評価していただければ…
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山口で下剋上に成功した陶隆房は困惑していた。
米の相場がおかしいのだ。
自分の治める山口ではなく『京都、堺、伊予、備後、豊後などの他地域が』である。
今までは米の価格は余剰米の放出によって価格が大きく上下し、凶作の時など暴騰したのだが、今年になってから、ある日を境に安定するようになった。
なのに山口だけはその恩恵がないのである。
初めは米相場の暴騰で儲けた人間がいてささやかな幸福があったり、博打好きな山師が堺から山口に拠点を変えて商いをするようになり、縁日のカラーひよこのような珍しい品物が溢れるようになった。
人が増えて市にはものすごい活気が生まれた。
利に聡くサバイバル能力のある少数精鋭のような商人たちが集まったためだ。
そのため「実力でのし上がった人の下には実力のある人が来るのですなぁ」と陶をおだてる人間が出たし、陶もまんざらではなかった。
『自分は天から選ばれた人間なのだ』という壮絶な勘違いが無ければ、戦争に負けて上司の跡継ぎを戦死させたのに、のうのうと国政に携わろうとする神経など持てないのだろう。
まともで責任感のある人ほど精神を病んで止めていく日本の悪癖は昔から変わらない気がする。
ところで、商売をする上で一番もうかる方法は何だと思われるだろうか?
一番手っ取り早いのは『品薄の商品を余所から買い占めて高値で売る』である。
だが品薄の商品は仕入れが大変だ。
だったらどうすればよいか?
利にさとい商人なら答えは簡単に思いつく。
手持ちの商品を『品薄の商品にすれば良い』のである。
そんな自
他人を陥れてでも自分だけ儲かろうとする商人による盗難、暴力沙汰は当たり前。ひどいのになると他人の米だけでなく、自分の米までパフォーマンスで放火する奴まで出る始末。
これを見て山口の町民は「こんなに米が無くなったら多少高くても買っとかないと」と思うようになった。
人道的にアウトだろうと儲かるなら即実行。何故なら自分は特別だから。
そんな人間を集めれば、とんこつラーメンよりも濃厚な濁りの塊になるのは火を見るよりも明らかである。
さらには米商人が取引を出来ないようにして売れ残った米を安く買いたたいたり、米を買い占めて値段をつり上げたりするようになると陶も取り締まらざるを得なくなった。
だが、
法や取り締まりの抜け道を次々と見つけては逃げ出すので陶の取り締まりも届かなかった。そのため末期の山口は物価変動によるインフレと食糧不足が深刻になった。
物価の安定は統治者の仕事である。
昨日2千円で買えた米が、翌日1万円になっていたら町民は困るし、逆に100円で売られては農民が困るのである。
現代でも1972年まで政府が補助金を出して米価の公定価格を定めていたのはそのためだ。
物が余っている時は不要だが、限りがある場合 物の値段と言うのはどこまでも釣り上がる。
まさに某プレイステーシ●ン5が転売屋によって買い占められネットオークションで高値がついて販売されている状況のように米の価格を初め物資が高くなった。
こうなると経済は停滞し、余所者との取引はなりを潜め、景気が良かった山口は次第に不景気となる。
すると暴騰した後に急落した株掲示板のように、後から勝手に山口に来た新参者が我がもの顔のようにふるまって陶への悪口を言いだした。
『儲かると思って来たのに、全然儲からないし治安も悪い。ここの民度は最悪だ』『当主は何をやっている。こんな使えない奴はクビにして責任を取らせろ』と、陶が大内義隆にやってきたような誹謗中傷が十倍になって返って来たのである。
このため、陶は物資調達のため他の領主へ強制的な米の買い上げを行い、反乱を頻発させる事となる。
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「経済ってのは回し方を調整するとたくさんの人が幸せになったり不幸になったりするんだなぁ」
と、各地の米相場を見ながら、山口を地獄に叩き落とすよう経済政策を出した張本人は長増や吉弘に言った。
各地の相場を読んで、高値になった商品を供給し、安値になった品を買うというのは物価の安定を意味する。
なので山口の取引所だけ除外し、米や生活必需品が不足している所へ送りこむように博打打ちの公家へ指示を出しておいた。
こうすれば金持ちが財力に任せて買い占めをしてもうま味が減るし、まっとうに働いた人間が損をする確率は減る。
そして、まっとうでない連中が稼ぎ場として逃げ込めるよう、あえて山口はなんの調整もせずに放置してみたのである。
その結果、まっとうでない方法で食べていた柄の悪い連中は山口へ消え、治安が良くなった。
「まあ、一時の別府や広島の呉とか、儲け話の多いところにはやくざがすぐに集まって栄えた後に縄張り争いで抗争が起こったって聞いていたけど、ここまで効果があるとは思わなかったなぁ」と、想像以上に炎上した山口の相場を見て内心冷や汗をかいていた。
一時は低迷していた米価格が2倍3倍となり、さすがにかわいそうなので多めに送りこんだのだが、すぐ転売ヤーに買い占められている。堺の5倍の値段で買われているのだけど末端価格はいくらになるのか見当もつかない。
まあ、五十枚500円のマスクを一万円でも購入していた現代人を見ると死活問題となる食料品なら納得ではあるが…
米相場で儲けながら、ここ1ヶ月の間、各地で変な物価の変化があればすぐに潰すように博打打ちの公家に指示を出した成果が山口の惨状である。
農民は大丈夫だろうけど町民の生活を考えると他人事で敵国ながら胸がキリキリ痛む。
「…まあ、大内義隆様みたいな文弱な君主と違って、天から与えられた物を受け取った優秀な陶さんなら、なんとか上手く納めるでしょう。(棒」
と全く心のこもってない声でさねえもんが言った。
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まあ、ヤバいのはこちらも同じだ。
金というのは人間の精神に深く関わっている。
仕事辞めて薄給バイトなどをやってて腐りきっていたときは「こんな世界滅びないかな」と思っていた人間が、株で二度ほど小金を稼いだら「世の中ってこんなに素晴らしかったんだ!欲しかったプラモ、ゲーム、とりあえず買おう」となるんだから、金の力は凄い(その後、暴落を食らって再び世界の滅亡を望むようになりました)
それは戦国時代人もかわりないらしい。
「やあ、御屋形様!気持ちの良い朝ですな!」
今まで「五郎様(笑」と宗麟の事を見下していた領主の態度がだいぶ変わってきた。
原因はしいたけ栽培…と言いたい所だが米相場の利益である。
京都で米が不足するたびに高値で売るのだが貯蔵米が尽きかけたので「利益の9割を渡すので米を預けてくれ」と頼んで投資信託のような事をしたのである。
京都で売った米の儲けを別の商品の仕入れでさらに増やし倍にして返すと、はじめは「大事な米をつかって商売人に成り下がるとは…」と小言を言っていた連中も、次第に態度を変えてきて、現在に至る。
「これ投資に失敗したら確実に恨まれるし、次第に増長して利益が減ったら手のひら返しがくるやつですね」
とさねえもんが言うが、それ以上の危機がこちらにも迫っている。
「それよりも、売りすぎて米が無くなりました」
縁の下の力持ちである吉弘兄さんが白旗をあげたのである。
金というのは人間の精神に深く関わっている。だがそれ以上に食料は人間の精神に深く関わっている。
金を稼ぐために戦闘機を敵国に売るような所業の果てに迎える大友家の未来。それはどこに向かっているのだろう…
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2021年2月10日の時点で5万円のPS5が8万円~11万で売られてました。
でも、マスクの500円>1万円の方が利率が高いし感染を蔓延させる一因となった分、罪業値は高いと思います。
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