第29話 大友家総司令官 大友八郎晴英
「今回の戦い、八郎そなたが総指揮をとってみないか?」
そう言われて八郎くんはなにを言われたのか初めよく分からなかったようだ。
「殿!いきなり何を申されますか!」
臼杵と吉弘が慌てて言う。
大友家の当主ではなく弟に軍事権を託す。
毛利家の小早川や吉川のような有能な弟が活躍する12年後なら受け入れられた提案かもしれない。
だが、ここは5代前から当主の弟は、当主を裏切って当たり前な大友家である。
肉親に権力を分け与えるなど自殺行為に近いのだろう。
「兄上。お戯れは止めてください」と八郎くんも言う。だが
「お主は2年前、宇佐神宮で大内家督を継げなくて周防守の官位も有名無実となってしまった。なので恥を注ぎたいとお願いをしたであろう」
とさねえもんから聞いた話を出す。八郎くんの希望を、この兄は知っt「え?なぜそのことをご存じなのですか?」
「え?」
「え?」
…ちょっと待って欲しい。
誓願文って絵馬みたいに誰でも見れるもんじゃないの?
もしかして神社の人しか見れない特別な物が、現代になって公開されて知ることができたものなの?
俺はさねえもんの方に目を向けると、さねえもんは頭を抱えていた。「アチャー」と言わんばかりの表情だ。
あ、やばいこれ。
「確かに一昨年の仲夏に宇佐神宮へ送りましたが何故それをご存じなのですか?」
えーとえーと。
まさか『宇佐神宮史(2012年発行)』って本に掲載されてましたとは言えまい。
未来知識があるからなんて言えば頭がおかしくなったか宇佐神社がチクったと思われるかもしれないだろう。
…どう、ごまかそうかな?
ここはやっぱりあれしかないか
「実はな、夢で再びお告げがあったのだ」
まさかの時の夢のお告げ、である。
「あの、科学様という仏様ですか」
「ああ、そう、それ」
そんな名前をつけてたっけ?とっさにしてもヒドい名前だな。
せっかくだし、もう少し先の事実も伝えておくか
「実はな、来年に大内義隆どのが家臣に討たれるとお教えくださったのだ」
「なんと!」ベッキーや八郎くんが驚く。
逆に長増と臼杵兄弟は「やはり、そうでしたか」と予想済みだったようだ。
「そして、主君を討った逆賊は他の領主の支持を得られず、窮余の策として大内家の血筋を傀儡にしようと考えると申されておった」
「つまり逆賊は大内家をうまくまとめられないのですな」長増が補足する。
「そうだ。そして逆賊は八郎、そなたを大内家の跡継ぎに据えるだろう。だが、大内家の領主たちは四散分裂し、逆賊は別の家臣に討ち取られると申されておった」
毛利という固有名詞は明言を避けた。
あのころの毛利はまだ一地方の領主で、6国以上を保有する大内を乗っ取るなど信じられないだろうからな。
「すると八郎様は…」
「逆賊を討った別の逆賊の手で討ち取られるだろう。そう科学様は申しておられた」
今から7年後、大内家の家臣をまとめられず大内晴英、いや大内義長は殺される。
「つまり、八郎が大内を継ぐにせよ継がないにせよ、ここで少しでも家臣を動かしたり当主としての経験を積んでおけば、生き延びる可能性が上がるのではないかと思う」
俺は八郎君を死なせたくないのだ。
「さらにいえば八郎を討った賊は中国をまとめあげ、大友と長く戦う事になるとも科学様はおっしゃられていた。豊後の静謐を考えれば大内が健在であったほうが良いとも思う」
なので八郎くんへ大友家でそれなりのポストを与えれば、傀儡に出来なくなって陶晴賢も反乱を起こせないかもしれない。
まあ、陶自身も大内家の庶流だったというので、自分が大内家を継ぐつもりだったとしたら、反乱自体は防げないだろうけどな。
「それに八郎は
「兄上、私の事をそこまで…」
八郎くんが涙目でこっちを見ている。
ベッキーや長増も驚きつつ、納得はしてくれたようで臼杵さんに至っては「なんと無欲な」と感心している。
…ごめん。単純に俺が戦争にいきたくないのと、悪意だらけの政治の舞台に立ちたくないだけなんだ…。
代われるものなら、早く変わって欲しい位なのである。
「というわけで、俺は豊後で反抗的な領主や大内の動向を見据えて後方から支援する。八郎は阿蘇を拠点に指示を出して欲しいと思うのだがどうだろうか?」
俺は大友の四天王とも言える吉弘、吉岡、戸次、臼杵兄弟の5名を見る。
え?四天王なのに5人いる?山中鹿介を筆頭とした尼子十勇士は14人くらいいたそうだし、佐賀の龍造寺四天王も5人いるから問題ないよ。
「それがしは賛成でござる」
そう言ったのはベッキーだった。
「この一カ月、共に指示を出しておりましたが八郎様は私欲なく、公正で、大将としての資質は十分御座います。周りの者が補佐すれば十分職責に耐えうるでしょう」
「副監督…」
八郎くんが感激する。
「確かに、豊後、肥後、筑後の3国を統治するにはお二人で統治された方が目が届くでしょうな」
「それに大友家は元肥後守護、菊池家の血筋でもあります。菊池家を継ぐとなればこのような反乱も防げるかもしれませぬな…」
「科学様のお話が本当とすれば、ある程度の戦功を上げれば傀儡にするのは難しくなるやもしれませぬ」
様々な事態を想定して思考する幹部達。
この会話で九州と中国地方の領地14国の将来が決まるとか、考えてみると凄い話である。
オラなんか胃がキリキリしてきたぞ。
断じてワクワクなんてしねえ。
結局、大友四天王の判断は「八郎様を前線指揮官とすべし」という了解だった。
家老たちには長増と臼杵が事前に相談して通させると言う。
これで、大友家の歴史は本来の歴史とは異なる方向に進む事が決定した。
「セメントとかトロッコ作ったり当主が戦争行きたくない時点で変わってる気がしますが…」とさねえもんがつっこむが、聞こえなーい。
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