第31話 自宅
内海は家に帰ってくると、ソファーに座り深いため息をついた。時計を見てみると、すでに二十二時を回っていた。内海としてはまだ署に残り捜査をしておきたがったが、明日のために体を休めろと武藤に言われた。いざっていう時にへばられちゃあ困るからな、と。
武藤の優しさには感謝しなければならないが、家に帰っても休まることはない。むしろなにもしてないため不安が募っていく。
あおいは無事なのだろうか。ちゃんと食事を取らせてもらっているのだろうか。暴力は振るわれていないだろうか。こうしている間も、あおいは助けを求めているのだ。自分への苛立ちと不甲斐なさが胸を締め付ける。
食欲もなくタバコを一本吸うと、内海は寝室に向かった。片付ける気力もなかった。
ベッドに横になるが、眠気はまったくやってこなかった。天井を見つめ、外の音や時計の針が刻む音を聞いた。無意味なことだった。フェラーリーだろうが軽自動車だろうが、雑音であることに変わりはない。夜空に広がる煌めく星々も、なんの癒しにもならない。むしろ哀しみを助長するだけだった。
内海は目を瞑ると、この事件のことを考えた。
二月ほど前から、あおいは多田野から卑猥な行いを受けていた。あおいは委員会の仕事があるためと、六時頃に家を出た。だが学校に向かうことなく、多田野が住むアパートへ向かった。委員会というのは嘘で、多田野に命令されていたと思われる。
そして車に乗せられ多田野に連れ去られた。その場面を近所のものが目撃している。多田野の焦りもしていなかったという。
なぜあおいを拐ったのか? 武藤の言うように、日頃のストレスが限界に足したのだろうか。時として、気まぐれで犯罪を起こすものもいるが。
多田野はいったいどこへ向かったのだろう。目的はあるのだろうか? あおいは無事なのだろうか。
まぶたの裏に、あおいの顔が浮かんだ。父の葬式で見た、憂いをおびた表情をしている。内海には泣いているように見えた。あのとき声をかけていればと、今日だけで幾度となく後悔した。
やがて、少しづつぼやけていくように、あおいの顔は消えていく。
内海は眠りについた。
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