第9話 SNSのアカウント
お昼時ということもあり、お客はたくさん入っていた。たがこうしてガヤガヤしてくれている方が話しやすい。静かなところで、事件の話はできない。
テーブル席に通され、ごゆっくりどうぞというお決まりのセリフを言い、離れようとしている店員を武藤は呼び止め、ザルそばを一つと言った。古手川は壁にかかっているお品書きの板に目を向けると、カツ丼を頼んだ。かしこまりましたと言い、店員ははけていった。
古手川はスマートフォンを取り出し、田宮舞花のSNSをチェックしてみることにした。
「田宮舞花のSNSを見ようとしてるのか?」と武藤は言った。
「ええ、よくわかりましたね」
「お前の険しい顔を見ていたらわかるよ」と武藤もスマートフォンを取り出した。
田宮舞花のアカウントを検索していると、武藤は声を上げた。
「どうしました」と古手川は画面から顔を上げた。
「いや、ネットのニュース記事を開いたんだけどよ、もう事件についての記事が乗ってたからさ。それもけっこう詳しく」武藤はこちらに画面を向けた。
古手川は顔を近づけ確認した。「本当ですね」
武藤の言ったように、詳しく事件の模様が書かれていた。発見された森の名前と、遺体の暴力の痕跡、そして切り取られた股座のこと。田宮舞花の名前は乗っていなかったが、それも時間の問題だろう。
古手川は自分のスマートフォンに目を落とし、アカウントを探した。ツイッターを開き、教えてもらったアカウント名を打つと出てきた。
アイコンは、友達と写っている写真を使用していた。七瀬の姿も見える。体育祭のときに撮影したらしくクラスで作成したオリジナルの赤いTシャツを来て、ピースサインと笑顔を浮かべている。友達も同じ格好だった。顔はアプリで加工し、犬の耳と鼻をつけていた。
投稿している内容も、一般的な女子高生のものだった。
スターバックスで飲んだ期限限定のラテの写真と感想、買ったテディベアのぬいぐるみ、ココルという名の店で食べたシュートケーキ、ジャニーズアイドル、映画化された小説、ライブが行われる前に撮った武道館前の写真。七瀬が言っていたように、ルージュという美容室の投稿もある。ルージュは若者を中心に人気を集めているらしい。
最後の投稿は、服屋店内の画像と買った服の写真。文章を読んでも楽しそうにしているのがわかる。これを撮ったすぐに、彼女は何者かの手によって乱暴され殺された。やり切れない思いだ。
彼氏のことは吹っ切れていると証言した七瀬の言葉通り、前の彼氏に関する投稿はなかった。一ヶ月遡ってみると、彼氏の名前も出てきた。一月前に別れたのも本当のことのようだ。
ザルさばとカツ丼は同時にやってきた。古手川はスマートフォンをしまい、手を合わせいただきますを言った。
黙って食べれるわけもく、かといって世間話ができるわけもなく、事件の話をしながらご飯を食べた。口と頭をうごかすことに集中するあまり、味はよくわからなかった。ただよく水を飲んだ。少し濃かったのかも知れない。
食べ終え箸を置いたところで、武藤のスマートフォンに着信があった。うん、うん、そうか、と相槌を打つばかりで武藤が話すことはなかった。
通話が終わり、ポケットにスマートフォンを入れると武藤は言った。「駅前で聞き込みを行ったが、目撃情報はなかったらしい」
「そうですか……。五日も経ってますしね」
「ああ、だがまだやってもらうように頼んでおいたよ。帰宅ラッシュのとき、有力なものを拾えるかも知れないしな」
「そうですね。ぼくたちもそろそろ」
「ああ、行こう」
お会計を頼み、店員にごちそうさまと挨拶すると、外へ出た。
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