521球目 スローボールが打てない

「とにかく遅いボールを頼むぞ。スロー、スロー」


「わかったから、離れて」



 夜野よるの青郡あおごおりの圧をさけようとする。これまでの夜野よるのVS番馬ばんばは、レフトフライ、デッドボール、三振で彼女が有利だ。綾倉あやくら監督は相性の良さに賭けて、番馬でゲームセットにするつもりだ。



 一方、浜甲はまこう学園は、代走の代走に俊足の白山しらやまを送り、同点のお膳立てをした。



番馬ばんば君、落ち着いて打てば、ヒットになるんだから。リラックス、リラックス」


「は、はい。スゥー、ハァー」



 泣く子も黙る赤鬼番長でも、この場面のプレッシャーは半端ではない。彼は深呼吸を何度も繰り返す。



「バッターラップ!」

「はっ、はい!」



 番馬ばんばはぎこちない足取りで打席に入る。夜野は薄ら笑みを浮かべながら、スローボールを投げた。



「ストライクッ!」


「ムンッ!」



 番馬ばんばはボールがミットに入ってから振ってしまった。ボールを待ちすぎて、全くタイミングが合ってない。



「タイム、タイム!」



 番馬ばんばは慌ててベンチへ戻る。



「ごめんね。代打出すわ」

「ヘーイ!」



 マクダミッドが腕まくりする。



「そ、そんなぁ、あんまりや」



 番馬ばんばは首を横に振って、代打を拒否する。




「遅いボールに弱いんどうしようもないから、スローボールが速球に見えたらええねんけど」



 津灯つとうがぼやくと、八百谷やおたにが狸になって挙手する。



「じゃ、幻術かけるわ」



 八百谷やおたに番馬ばんばの目の前で、茶色い指を振る。



「遅いは速い、速いは遅い」



 番馬ばんばの目は仁王像のように見開かれて、王者の足取りで打席に戻った。



「あと2つだ、夜野!」

「ウフフフフ」



 夜野は初球より遅いボールを投げた。番馬ばんばはためにためて、スローボールをとらえた。



(続く)

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