491球目 全く緊張していない

「ナイスプレー、番馬ばんばさん!」



 俺は番馬ばんばさんに親指をグッと立てて称える。



「こんぐらい晩飯前やぁ!」

「それ言うなら、朝飯前ですよ」



 津灯つとうの怖いもの知らずのツッコミが入った。



「こまけぇこたぁええねん!」



 ホントにサードが番馬ばんばさんで良かった。右打者がスローボールを引っぱると、三塁線行くからな。まぁ、番馬ばんばさんがダメでも、レフトに烏丸からすまさんいるから大丈夫だけど。



「5番ファースト安藤あんどう君」



 次からはまともなリードに戻るだろうと思ったら、またスローボール。もう知らんぜ!



 安藤の引っぱりの打球がライトの奥深くへ。火星ひぼしの長い手で何とかアウトになった。



「スリーアウト! チェンジ!」



 ハァ。これがセンバツ優勝校の強力打線か。良徳りょうとく学園のパワーと臨港りんこう学園のバットコントロールと神戸ポートタウン大付属のいやらしさが合体した感じだ。



「ミスター・ミズミヤ、グッドスローボールでした」


「もう嫌だぜ、あんなリードは」



 冷水に入れたタオルで顔をぬぐい、相手投手を見る。スピードはないが、どのボールもコーナーを突いている。



「ミーならビッグフライデース!」



 留学生のマクダミッドが力こぶを作って叫ぶ。こいつは番馬ばんばさんタイプか。



八百谷やおたに、あのPから番馬ばんばさんがホームラン打つか賭けよか。ワシはホームランに1000円」

「うちは打たんに1000円で」



 おいおい、ベンチで賭け事するなよ狐狸コンビ……。



千井田ちいだ先輩、今日もステキな盗塁見せて下さいね!」

「ちゃんと参考にするやん」



 千井田ちいださんと三毛根みけねは、すっかり師弟関係になっている。



「出番あるかなぁ」



 男女川みのりかわはそわそわして股間をいじっている。



 形代かたしろは人形を縫って、気色悪い笑みを浮かべている。



 新メンバーが全く甲子園の雰囲気に呑まれてないのが幸いか。



「1番セカンド宅部やかべ君」



 旧メンバーはどうかな。宅部やかべさんはいつも通りの無表情で打席に入る。



(続く)

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