489球目 無死満塁は逃げ場がない

 俊足の千本せんもとに備えて、内野はじりじり前進する。俺は自慢のストレートをインコースへ投げた。これならスクイズできまい。



「キャッ!」

「デッドボール!」



 シュート回転したのか、チキショー! これで無死1・3塁のピンチになった。



「フンフンフーン」



 3番の分多ぶんたは鼻歌まじりに打席に入る。彼はバントや犠牲フライに長けた嫌なバッターだ。



 監督から敬遠のサインが出た。初回から無死満塁かよ。監督命令だから従うけどよぉ。



 立ち上がった東代とうだいに敬遠のボールを投げる。埼玉さいたま翔出しょうでナインや応援団は大喜びだ。



「大量点ゲット! 青さん、頼んます!」



 つぶらな瞳の4番の青郡あおごおりは強打者のオーラが全くない。しかし、少しでも油断するとスタンドへ運ばれてしまう。



 東代とうだいのサインは大胆不敵だいたんふてきにもスローボール。エキセントリックなリードだな。そうでもしなきゃ、センバツ優勝校に勝てないってか。



 俺は青郡あおごおりの胸元にストレートを投げた。青郡あおごおりは狙いすましたように体を開いて、打ってきた。



(続く)

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