421球目 絶対に負けられない(監督と顧問の決意)

 飯卯いいぼう監督はベンチに深々と腰かけて、誰もいないグラウンドを見ている。



「ここにおられたんですね。随分ずいぶん探しましたよ」


「何かあったんですか?」


「あっ、いや、そのぉ、飯卯いいぼう先生にお聞きしたいことがありまして……。何で野球部の監督になったんですか?」



 鉄家てつげ先生は彼女の視線をそらし、少し照れ臭そうに笑う。



「そうですねぇ。料理のレパートリーを増やすためですかね」


「りょ、料理?」


「ええ。浜甲はまこう学園に来てから料理研究会やってたけど、最近は飽きあきしてまして。何か刺激スパイスが欲しい。そこに、野球部発足の話があったから監督なりたい思うてね」


「は、はぁ、料理ですか。さすが家庭科の先生」


「フフン。でも、私1人だと生徒が緩みまくりやから、鉄家てつげ先生が入って下さったことで、いい具合に締まりましたよ。ありがとうございます」


「い、いやぁ、大したことじゃありませんよ」



 彼は飯卯いいぼう先生をサポートするために顧問になった(https://kakuyomu.jp/works/1177354054895930927/episodes/1177354054921209048参照)ので、本人から感謝されると、心がムズがゆくなっていた。



「明日はあの子達がベストを尽くせるよう、采配しなくっちゃ」


「私は微力ながら、先生をお助けしますよ」



 2人が見つめ合った途端、言葉を失う。辺りは夕暮れから夜に染まって行く。今まさに“大人”の青春の1ページがめくられようとしていた。



(続く)

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