346球目 反撃を焦らない

 2回表の攻撃前、臨港りんこう学園の亀羅かめら監督は選手を集めた。人間時の彼の顔はしわがいくつも刻まれ、しなびた柿のように見える。



「ワシがきたえたお前たちなら、5点差ぐらいすぐに逆転できるじゃろ。じゃが、すぐに逆転したらアカン。1イニングに1点ずつ取っていけ」


「1点ずつ? 何でですか?」



 はたキャプテンがすかさず尋ねる。



浜甲はまこうは自らがリードする試合やっておらんじゃけぇ。いつもと違う試合展開すりゃあ、必ず焦りが出てくる。そこん突けば、ワシらの勝ちは揺るがんのう。ええか? 1点ずつじゃぞ、1点」


「はい!」



 老将の指示通り、臨港りんこう学園打線は1点取りに出る。ランナーなしの場面では、一発長打を狙っていく。



 井藤いふじ金文かなぶみ水宮みずみやのボールを打ち返すも、ファーストライナーとライトフライに倒れてしまう。



「7番ピッチャー生野いきの君」



 監督の指示を守れなければ、後が怖い。生野いきのはどんな形でもいいから塁に出ようと、バットを短く持った。



(続く)

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