324球目 初めての入れ替わりはだいじょばない

※今回は兵庫連合の宮田みやた洋子ひろこ視点です。



 私がハートスワップ入れ替わりの超能力に目覚めたのは、先月の中旬頃だ。



 古典の先生に提出するノートを運んどったら、階段で足をすべらせて瀧口たきぐち君にぶつかってしまった。



「いってぇなぁ。階段は慎重に下りろやし!」



 瀧口たきぐち君が私の声で言う。



「ごめんごめん。ケガせんかった?」



 私が瀧口たきぐち君の声で言う。



「あれ? ひょっとして俺ら――」


「もしかして、私達――」


「「入れ替わっとるし!?」」



 うわぁ。瀧口たきぐち君て意外と毛深いんやし。シャツと毛がこすれて、気持ち悪ぅ。瀧口たきぐち君の方は、私のおっぱいもんで鼻の下を伸ばしてやがる。



「コラァ! 他人のおっぱい、勝手にもむな!」


「おっ、すまんすまん。これって、元に戻れるんか?」


「わからへん。病院行かなアカンかもやし」


「俺とお前がぶつかってからこうなったんやから、もう1回ぶつかってみよか?」


「そんなんで入れ替わるん?」



 今度は、瀧口たきぐち君が私の体でぶつかってきた。すると、一瞬にして、ムダ毛の違和感が消えて、元に戻った。



「お前の超能力、めっちゃ便利やし。試合に使えるな!」


「試合に?」



 瀧口たきぐち君はカブトムシを獲った男の子の顔で、早口で説明し始める。



「ああ! お前が相手の主力選手と入れ替わって、相手チームの足引っ張るんやし。俺は入れ替わった後のお前のとこへ打たせんよう、上手いことリードする。どないや?」


「うーん、65点」



 瀧口たきぐち君の計画には穴がある。“私”になった奴が、入れ替わりの事実をバラす恐れがあるから。



「敵チームの人にバラされたら、どないするん?」


「そこんとこは問題あらへん。俺の“ドント・トーク・イット”で、入れ替わったこと言えんように出来るやし」


「なっ……、何ちゅうピンポイントな超能力やし!」


「これで、俺らの勝利、間違いナシやし!」



 その後、私は宝塚たからづかの男役の演技、ユアムーブの男性アイドルの動きを観察して、男になりきる特訓を重ねた。



 初戦は相手チームのキャッチャー、2戦目は相手チームのエース、3戦目は相手チームの4番と入れ替わって、勝利を収めた。



 今は浜甲の4番エースの水宮みずみや君と入れ替わっている。途中まで上手くいっとったんやけど、今や亀甲縛きっこうしばりで身動きが取れへん。



「うっ。ト、トイレ……」



 突然襲ってきた尿意。でも、誰もロープほどいてくれへん。私と入れ替わるん恐れて? ああ、このまま敵チームのベンチで、お漏らしの屈辱を味わうんか……。



「全く薄情な奴らやね。僕がほどいてあげるよ、クマちゃん」



 山科やましなが私のロープに手をかける。これは最後の大チャンス到来!!



(続く)


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