219球目 馬女と犬男の勝負がさけられない

 ホームランがセンターフライになるなんて……。津灯つとうがアオサギと入れ替わった意味がなくなってしまった。



「グギャアグギャア!」


「あと少しで元に戻すから、ガマンしてフガ」



 アオサギの魂が入った津灯つとうを俺と山科やましなさんで押さえている。



「右か左に飛ばしとったらホームランやったな」



 人に戻った番馬ばんばさんは、バットをゆっくりとケースの中へ戻す。全く怒っていない所が不気味だ。



「あれ、めっちゃはらわた煮えくり返っとるで。静かな時の番馬は怖いよー」



 山科やましなさんがこっそり教えてくれた。



「3打席目に期待しましょうか」



 これ以上、点差を広げられないよう、俺は一生懸命に投げる。



 六甲山ろっこうさん打線は9人内野を突破できず、浜甲はまこう打線は番馬ばんばさん以外がアウトを重ねていく。



 試合は1-4のまま、6回裏まで進んだ。



※※※



 六甲山ろっこうさん牧場の大縞おおしまキャプテンは屈伸運動をしながら、去年の春を思い出していた。



 去年の4月、ボダコ姿の大縞おおしまとニワトリ姿の名護屋なごやがチンドン屋のように太鼓を持ち、1年生の教室を練り歩いていた。



「えー、野球部―、いかがっスかー、ワンワン」


「コケコッコー!」



 恥を忍んだ甲斐があって、柳内やぎうち戸神とがみが入部してくれた。



「うちのクラスに体操と陸上トップクラスの女がいるんですよ。ちょっと誘ってみますわ」


「ホンマか。そんな子が来てくれたら、心強いな」



 柳内やぎうちがグラウンドに連れて来たのは豊武とよたけだった。当時の彼女は陸上に飽きて、他の部活を探していた。



「ここにオレより速い奴がいるって、ウソちゃうやろなぁ」


「本当だって! ホラ、あの犬の人がそう!」



 柳内やぎうち大縞おおしまを指差す。大縞おおしまはベンチで唐揚げを骨ごとかじっている。



「そっか。じゃあ、オレがあの先輩に負けたら、野球部入るわ」


犬縞いぬしまさん、400m走やりますよー」


「犬じゃなくて、大縞おおしまや! って、400m走?」



 大縞おおしま豊武とよたけと400m走勝負する羽目になった。



(続く)

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