191球目 木津の夢は果てしない

 木津きづ星太郎せいたろうの実家は玉ねぎ農家で、淡路あわじ島の農業を支えてきた。星太郎せいたろう自身も、大人になったら農家を継ぐだろうと、漠然と思ってきた。



 そんな彼に転機が訪れたのは小4の頃だ。彼は父ともに、珍しく淡路あわじ島で開催されたプロ野球の試合を見に行った。



 その試合で、なにわクロコダイルズの椿田つばきだ投手がノーヒットノーランを達成したのだ。次々と三振を奪う椿田つばきだに、彼は感動する。



 さらに、椿田つばきだが観客席に投げたサインボールを、幸運にもゲットできた。彼の人生の目標は、玉ねぎ農家から、椿田つばきだのような名投手を目指すという果てしないものに変わった。



 プロ野球選手になるため、毎日5キロ走り込み、シャドウ・ピッチング100球以上を欠かさずやってきた。



 その努力が実を結んだのは、今年の春季大会だ。強打の臨港りんこう学園相手に9回まで0点の好投を見せたのだ。



 プロのスカウトにアピールすため、1つでも多く勝つ必要がある。そのため、浜甲はまこう学園の偵察ていさつ班をあざむき、超高反発バットで点を取った。



 木津きづは素振りしながら、狙い球を絞っていく。



 今日の水宮みずみやのスライダーはキレているし、チェンジアップは低めに集まって打ちにくい。狙いはストレート。だが、2回以降、全くストライクゾーンに入れてこない。



 それでも、木津きづは打てる自信があった。多少は高かろうが、低かろうが、ストレートなら打つ。それ以外のボールが来たら見送るつもりだ。



 初球のチェンジアップは全く手を出さない。



 2球目のスライダーは外へ逃げてボール。


 

 3球目、ついにストレートが来た。高いボール球でも、木津きづは迷わず振りぬく。



 烏丸からすまに飛行させないほど速い打球は、フェンスに当たる。木津きづは2塁まで走り、小さくガッツポーズした。



(続く)

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