79球目 ナックルカーブはナックルと関係ない

※今回は宅部やかべカオル視点です



 9回表1死一塁の場面で、グル監が俺をマウンドへ送る。



 水宮みずみやの大炎上と取塚とりつかの30球肩のおかげで、やっと第三投手の俺の出番が来たってワケや。



「ミスター・ヤカベ。サインは、フィンガーの数にしましょう。ワンがストレート、トゥーがノーマルなカーブ、スリーが小さいカーブ、フォーがたてのカーブ、ファイブがナックルなカーブで」


「悪い。俺のカーブ、どんな変化するかわからんねん。ストレートとカーブとスローボールだけにしてくれ」



 親指のゲームダコの影響で、俺のカーブは予測のつかない変化をする。一番好きなナックル風のカーブゲーミング・カーブをたくさん投げられるようになりたいな。



「OK。ワンがストレート、トゥーがカーブ、スリーがスローボールで」


「ああ。好リード頼んまっせ」



 投球練習はストレートオンリーにする。俺が凄いカーブ投手だとバレたら厄介だからな。



「何だ、バッピーの球かよ」


「ホームラン狙っちゃおうかな」



 花丸はなまる高校の打者にナメてもらった方がありがたい。



 初球からカーブのサインだ。人差し指と中指を上の縫い目、親指を下の縫い目にかけてOK。どんな変化するか、天に任せる!



 最初のカーブは、手元を離れると大きく揺れて、椎葉しいばから逃げるようにアウトコースに決まった。いきなりゲーミング・カーブだ。



「ストラック!」



 何だあれはと動揺どうようする相手ベンチを見て、実に清々すがすがしい気分だ。このままポンポンとストライクを取って、相手をアウトにするか。



 2球目のカーブは大きく曲がり過ぎてボール。3球目のカーブはインコースに鋭く入る小さいカーブでストライク。次はアウトロー(外角低め、最も打者が打ちにくいコース)にストレートか。華麗かれいに決めてやろう。



 脱力フォームから一転、強気のストレート。東代とうだいの構えた位置にズバッと決まる。三振だ。



「ボール」



 そ、そんな、あまりにも殺生せっしょうだ。



 俺はボールを受け取ると、ロージンバックを取って一息つく。



 カウントは2-2、まだ1球ボールゾーンに投げられる。俺の方が圧倒的に有利だ。落ち着け、カオル。



 東代とうだいのサインは外のカーブ。これをフィニッシュボールにする。俺の指から離れたボールは、真ん中に入るカーブに。えっ、そこは危な、打つな、わぁ!



 打球はフェンス際の火星ひぼしの頭上を越えた。椎葉しいばの2ランホームラン。



 俺の高校野球ピッチャーデビューはホームラン。べスフレで勝負したら勝つのに、クソクソクソ! マウンドにグローブを叩きつけた。



(続く)

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