68球目 三球勝負は危ない

 椎葉しいばは左打席に入って構えたが、一旦タイムを要求する。



「ハァ、緊張してる。お互い悔いのない勝負にしたいとね」



 彼は左手を東代とうだいの肩にのせる。彼の左手から出る微弱な電流が、東代とうだいの血管から脳にたどり着く。脳の思考回路が故障し、狂ってしまう。



 椎葉しいばの超能力・神の手クレイジーは、左手でふれたものの精神を狂わせるものだ。元から狂っている人に効果はない。



 クレイジー東代とうだいは、大ピンチの場面でど真ん中ストレートのサインを出す。水宮みずみやはIQ156が出した結論ならと、サイン通りに堂々と投げる。



「ストラックワン!」



 椎葉しいばは微動だにせず見送る。これまでの東代とうだいのリードは、ストライクゾーンきわどいコースを攻めるものだ。ど真ん中を攻めるのは、彼の通常の思考回路にないということだろう。



 2球目もど真ん中ストレートのサインだ。水宮みずみやは少し左眉を吊り上げたが、サイン通りに投げる。椎葉しいばはバットを振るが、途中で止める。



「ストラックツー!」



 2球連続のど真ん中ストレート。今までの東代とうだいのリードでは、3球連続で同じ球種、または同じコースのサインは出さない。だが、クレイジー東代とうだいなら出すだろう。



 椎葉しいばはど真ん中ストレート一本に絞る。水宮みずみやが足を上げて、左ひじが突き出し、腕を振り下ろす。きれいな軌道きどうのストレートがど真ん中に来る。椎葉しいばはバッティング練習どおりに力みのないフォームで、ボールを打ち返した。



「セ、センター!」



 打球はまっすぐに飛んでいく。センターの山科やましなはフェンスをよじ登って、グローブをかかげた。しかし、打球はそのはるか上を通過して、学校の窓ガラスを破壊した。



「ホームラン!」



 審判の手がグルグル回る。



 4回表、6番椎葉しいばの逆転満塁ホームラン。水宮みずみやは壊れた1階の窓ガラスを見て、ため息をついた。



(続く)

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