　真池（まいけ）は口では「ヘイヘイ、カモンカモーン」と言いながら、内心ではボールが飛んできませんようにと、ロックンローラーらしからぬことを願っていた。未だに硬球を怖がり、鼻が折れたり、目に当たったりしたらと、不安を破裂寸前の風船大にふくらませている。

　相手打者の川嶋（かわしま）が、水宮（みずみや）がボールを放すと同時にバントの構えをする。バントしたらダッシュだと、番馬（ばんば）は鬼の突進、真池（まいけ）は牛歩する。

「ストライック！」

　相手は番馬（ばんば）の猛チャージに驚き、バントできなかった。吉田（よしだ）監督は「一発で決めろタイ」と、顔を真っ赤にして声を荒げる。

　あんな怖い監督じゃなくて良かったと、真池（まいけ）は胸をなでおろす。真池（まいけ）はロックな見た目と裏腹に、怒られ慣れしてない「いい子ちゃん」なのだ。

　川嶋（かわしま）は2球目もバントを試みたが、水宮（みずみや）のストレートに押されて、ピッチャーフライになってしまった。川嶋（かわしま）はベンチに帰ると、丸まったダンゴムシのようにベンチの隅で固まった。

　次の藤原（ふじわら）のセーフティーバントは、真池（まいけ）の前に転がる。

「真池（まいけ）さん、ゆっくり！　落ち着いてね！」

　津灯（つとう）キャプテンの指示どおり、真池（まいけ）は金魚すくいみたくグローブでボールを拾い上げ、ギターのチューニングをするかのごとく繊細（せんさい）な指さばきでボールの良い握りを探る。

「早く投げて！」

　一塁上の水宮（みずみや）が左手を挙げて叫ぶ。真池（まいけ）が慌てて送球したら、水宮（みずみや）の頭上をはるかに越える大暴投になってしまった。

「オーマイガッ！」

　真池（まいけ）の目が点に、頭が真っ白になる。ライトの火星（ひぼし）のカバーのおかげで、藤原（ふじわら）は一塁止まりだった。

　ここで、浜甲（はまこう）内野陣がマウンド上で集まる。

「ポジションを決めておきましょう。ミスター・バンバはリトル（少し）前へ、ミス・ツトーはサード近く、ミスター・ヤカベはセカンド近く、ミスター・デヴィッドはファーストとホームの間を守って下さい」

「オ、オレだけ前過ぎないか？」

「ファーストはミスター・ヒボシに守っていただきます」

　面と向かって一塁手失格と言われたようで、真池（まいけ）の精神が壊れかけのギターになった。

（続く）

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