57球目 ユニフォームが似合わない

 ついに、初の練習試合が明日に迫った。俺達は練習前に、家庭科室に集められてミーティングだ。



 トイレに時間がかかった俺は、家庭科室の到着が開始5分前になってしまう。



「お疲れ様でーす」



 家庭科室は5つのグループに分かれていた。



 津灯つとう千井田ちいだ本賀ほんがの女子三人組は、猫の可愛い動画を見ている。千井田ちいださんはあたいの方が可愛いと口をとがらせている。



 番馬ばんばさんと火星ひぼしは腕相撲をしている。火星ひぼしはすぐに負けるが、何度も再挑戦する。番馬ばんばさんは口角を上げていて、まんざらでもないようだ。



 真池まいけさんと山科やましなさんはイヤホンを共有して、ロックバンドの動画を見ている。真池まいけさんはドラムを叩く真似、山科やましなさんは首をふんふん振っている。



 烏丸からすまさんと取塚とりつかさんは人生ゲームをしている。烏丸からすまさんは家族が8人で鼻の下を伸ばし、取塚とりつかさんは借金だらけで頭を抱えている。



 東代とうだい宅部やかべさんは小型ゲーム機で野球ゲームの対戦だ。0対0の投手戦で、面白そうだ。



 俺はどのグループにも入れない“ぼっち”だ。一番後ろの席でカメレオンのごとく壁と同化する。わずか5分が長く感じられた。



「皆さん、お待たせー。今日はスタメンとアレを発表します」



 グル監がエプロン姿のまま現れる。主婦の雰囲気がしっくり合っていて、国民的人気アニメの主役を張れそうだ。



「アレって何ですか、先生?」と、津灯つとうが挙手する。


「ウフフ。野球部と言えば、これが必要でしょう?」



 彼女がエプロンを取って、Yシャツを脱げば、野球のユニフォームが出てくる。白地に黒い縦じま、胸には達筆たっぴつ浜甲はまこうの文字が刻まれている。肩口は水一色で塗られ、袖口は波のような白いギザギザ模様が描かれている。



「白い砂浜と海をイメージして作ったんよ。ちなみに、アンダーやストッキングは紺色よ」



「めっちゃええデザインやん。グル監、ありがとう」


「何か燃えてきたでぇ!」



 皆の熱気が教室内にこもる。俺も半年ぶりにつけるユニフォームに心躍こころおどっている。



「次は明日の試合のスタメン発表するよ」



(初の練習試合まであと1日)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る