37球目 練習試合やるの早くない

 ラーメンマルモトの大将が野球部の元監督とわかると、グル監が恥ずかしげに口を開く。



「実はこの子達も野球部なんですわ。まだ出来立てですけど」


「おお。どうりで、みんな体操着か。試合はやったことあるとね?」


「ノー。早くエブリバディみんなでゲームしたいです」


 

 東代とうだいがバットを振る素振りを見せて言う。



「よしっ。じゃあ、俺が特別に花丸はなまるとの練習試合を組んだるタイ」



 大将が銀歯を見せてニカっと笑う。グル監は目がキョロキョロとして動揺を隠せない。



「ええ? そんなご迷惑では……」


「いいってことよ。今の監督は俺の教え子とね、何でも言うこと聞くばい。さっ、電話すると」



 大将が手をハンカチで拭いてから、スマホで電話をかける。



「おう、吉田か? 試合の申し込みとね。うん。ありがとう。よかよか。来週の日曜。2軍か。ありがとう。今度、タダでおごるタイ。じゃ、さいなら」



 大将は満面の笑みを浮かべて親指を立てる。



「OKタイ。来週の日曜、先生の学校のグラウンドで、花丸はなまる高校の二軍との試合やるとね」


「やったぁ! ありがとう、大将!」



 津灯つとうが飛び上がって喜ぶ。皆もつられて、抱き合ったり、ガッツポーズしたりと、狂喜乱舞きょうきらんぶだ。真池まいけさんだけ、ハリガネでお腹を壊してトイレに行っているのが気の毒だが……。



 俺が飯卯いいぼう先生に目を向けると、意外に涼しい表情をしていた。彼女は俺の視線に気づくと、すぐに目をそらして大将に何度も頭を下げてお礼の言葉を連ねる。



 グル監は、この店の大将が花丸はなまるの元監督と知ってたんじゃないか? 出来たばかりの野球部と試合してくれる高校は皆無だ。だからこそ、コネを使って練習試合をセッティングしたのかもしれない。



 津灯つとうとは違うベクトルで、この人も中々のやり手なのかも。どんな采配をふるうか、実に楽しみだ。俺も目一杯投げて活躍するぞ!



(初の練習試合まであと9日)

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