第33話 チーム編成

「ご苦労だったね。君達のおかげで無事爆弾を解除することができた。お手柄だよ」

 喜ぶべきことだろうに、やはり会長の眉間には深いシワが寄せられていた。


「またなにかあったんですか?」


 会長は俺の言葉には答えず、代わりにウルナさんに一枚の紙を持って来させた。

 それには、どこにでもあるA4用紙に、新聞の文字を切り取って『Xデーは明後日の放課後』と書かれてあった。


「……そういうことだ。我々が捜索している間に再び生徒会室への侵入を許してしまった。これは由々しき事態だ。生徒会としての沽券に関わる」


「まったく、いいザマだにゃー。犯人に舐められっぱじゃねーか」


 眉間にシワを寄せる会長とは対照的に、常のチャラチャラとした態度を崩さないシャロンさんが言った。


 彼もあまり関わりのない生徒会役員の一人だった。というよりも、あのチャラチャラとした感じがどうにも合いそうになくてこちらから避けてしまっていた。そんな彼も、庶務という立派な役職持ちだ。俺とは天と地ほどの実力差があるのだろう。


「そうだな。これ以上舐められるわけにもいくまい。次で確実に犯人を確保する。目下生徒会室には魔法障壁を張ることとする。皆には不便をかけるが許してほしい」


「ま、しゃーないねえ。それよか、明後日はどうするんよ。まさか皆仲良く座って待ってるわけじゃないっしょ?」


「それに関してはすでに考えている。ウルナ君」


「はい。明後日は講義終了後すぐに各々が組みやすい相手と三人一組となっていただきます。その後、指定された地点へ移動していただき、そこで、相手の動きに合わせて臨機応変に行動していただく運びになります」


 伊達に生徒会書紀の役職を持っていない。ウルナさんはとても読みやすい字でホワイトボードに当日の動きを書きまとめていく。


「侵入されたことも鑑みて、会長には万が一に備えて当日は生徒会室にて待機していただきます」


 この言葉に鋭く反応したのはシャオロンさんだった。


「ウェイウェイ。わざわざXデーなんて言うくらいなんだから絶対派手にヤリ合うことになるっしょ。そん時にカイチョーさんなしってのは考えれないっしょ」


「そうもいかないさ。そう何度も何度も生徒会室に土足で入り込まれるわけにはいかない。犯人になにか目的があるとしたら各データが集まっているここだろう。本陣を私が守るというのは理にかなっていると思うが?」


「いや、でもさあ」


「……それとも、私がここにいては都合が悪いのかな?」


「おいおい、俺を犯人扱いしてる? 勘弁してよ。俺は純粋に戦力の心配をしてるだけだ」


「すまないな。私としても仲間を疑うようなことはしたくないんだが、許してくれ」


「……納得されましたか? 他に意見のある方は今の内にどうぞ。ないようでしたら組み合わせを決めてください。本日はこれにてお開きです」


 それぞれ相方を決める流れの中、俺はリッカに相方になってもらうよう打診した。理由は単純に明後日の5限が被っているからだ。講義終了後そのままの流れで配置地点まで移動できるのでタイムロスが避けられる。残る一人は――。


「よっ、お二人さん。俺と組もうぜ」


 そう声をかけてきたのはシャオロンさんだった。一瞬この組み合わせに疑問を覚えたが、リッカの教育係がシャオロンさんであることを考えれば自然だと思い直した。


「シャオロンさん。組むのは構いませんが遅刻はしないでくださいね」


「わーかってるって。そんな不機嫌そうな顔しないの。それともなに、期待のホープ君との甘い一時を邪魔されそうでイラツイてるのかな?」


「なっ……! シャオロンさん!」


 どう考えても堅物寄りのリッカとノリの軽いシャオロンさんとでは意見が合わないと思うのだが、案外中和されて良い塩梅になるのかもしれない。


 言い争う二人を尻目に、俺はフレッド達が誰と組んだのかをそれとなく確認した。

どうやら二人プラス生徒会役員が監督役としてつく形でチームを組んだようだった。

クロエ先輩とアイシャにウルナさん。フレッドとサーシャには副会長のサンドラ・アレキパーソナさんが、そしてイオナ先輩にはパトリックさんと庶務のチャールズ・レンフルーさんがついたようだった。


 サンドラさんは見るからに貴族のお嬢様といった感じだからフレッドが悪さをしないか心配だな。とはいえ、それよりも心配なのはイオナ先輩のところだ。今日組んだ感じ先輩はパトリックさんとの仲が良好とは言えない様子だったから、チャールズさんの場を和ませる手腕に期待するしかない。


「エルもなんとか言ってくれ!」


「ん? ああ、なんの話しだっけ?」


「リッカちゃんが俺のことを邪魔者扱いしてるんだよん」


「そんなことは言ってません!」


「あー……リッカがやけになって言い返すからからかわれるんだよ」


「……からかってたんですか?」


「そうだよん」


「シャオロンさん!」


 再び言い争いを始める二人にため息を吐きつつ事態の収束を図る。

こうしてチームが結成され、俺達はウルナさんの言葉通り生徒会室を後にした。唯一ウルナさんと会長だけが生徒会室に魔法障壁を張るために残った。

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