第33話

『でも、そう簡単に顔に出ないと思うぞ。普通に愛想笑いとかはやってたけど』

『だからこそ惚れさせるのよ。いきなりされたら誰でも驚くでしょ』


 二人はそんな会話をしていた。聡太が協力的になっているのが変に感じてしまうけど。


『まぁでも今はご飯でも食べましょう』

「そうだな。腹が減ってはなんとやらって言うしな』


 二人は会話を一旦中断して、届いていたご飯に手をつけた。


『有紗。まだお前はこんな奴と一緒に居るのか』


 ご飯食べている途中、あの二人の前に誰かが立っていた。


『お父さん!』


 なんと有紗さんのお父さんらしい。結構貫禄がある感じ人だった。


『早く別れろと言っただろ』

『お父さん。どうか許して貰えませんか?』

『お前にお父さん呼ばわりされる筋合いは無い!』


 聡太の言葉をキッパリと断った。これが聡太の言っていた、親に認められていないってことなのか。

 険悪な雰囲気になっていた。


『あの、申し訳ありませんが他のお客様の迷惑になりますので』


 言い争っていたところに店員さんが入ってきた。


『それはすまない。——じゃあ俺はもう行くが、早く縁を切れ』


 そう言って有沙さんのお父さんは去って行った。

 

『…………』

『…………』


 いい雰囲気から一転お父さんの登場により、最悪の空気になってしまった。


「ねえねえ、どうする?」


 二人を見ていると結衣に話しかけられた。


「今出ても迷惑になるだけだろうし、見守るしか無いだろ」

「やっぱりか」


 そうだ。出来るだけ手助けはしたいけど、やっぱり二人の問題は二人で解決するしか無い。


『ごめんね。聡太』

『いやいや、全然大丈夫』


 有紗さんが謝ったのに対して、聡太は元気付けようといつも通りに振る舞っていた。


『私がちゃんと説得できれば』

『有紗のせいじゃないよ。俺がもっとしっかりすれば認めてもらえるはずなんだ』

『うん……』

『だから今は目先のことに集中するよ』

『目先のこと?』

『さっき俺を惚れさせるって言っただろ』


 聡太がそう言うと、有紗さんの顔は心配そうな顔から、いつも通りの強気な顔に変わった。


『そうよ。絶対に惚れさせるんだから、見ておきなさい!』

『楽しみにしとくよ』

 

 二人は思った以上に元気そうでよかった。

 その二人を見ている時に結衣に話しかけられた。


「二人は凄いね」

「そうだな」

「私たちも、もっと強かったらよかったのかな?」

「何言ってるんだ。結衣は十分強い女だよ。それに今は最高の高校生活をしてるんだし」

「そうだね。今を精一杯楽しまなくちゃだよね」

「ああ」


 結衣はたまに弱気になる時はあるが、とても強い。本当に結衣にどれだけ助けられたか。

 だからいつまでも元気でいて欲しいよ。

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る