第14話

「ただいまー」

「お、おかえりーけいくん」


 結衣はなんだかソワソワしていた。


「どうした?」

「え……。あっ! うん何が?」

「なんか様子が変だなって」

「ううん。大丈夫だよ。元気元気」

「そう? ならいいけど」


 少し気になるが結衣は大丈夫だって言ってるし、気にしないことにした。


「ああ、そうだ! これお土産」

「お土産? うわぁ。ウサギのぬいぐるみだー」


 ゲーセンで取ったのを忘れずに渡しておかないとな。


「こんなのどこで買ったの?」

「買ったんじゃないよ。ゲーセンで取ってきた」

「へー、珍しいね」

「途中で聡太と会ったんだ。それから成り行きでゲーセンに行くことになった」

「なるほどね。聡太くんかー。ありがとね。けいくん」

「どういたしまして」


 喜んてさでもらえたようで何よりだ。


「そっちはどうだった?」

「うん! 楽しかったよー」

「へー、そりゃ良かったな! 何したんだ?」


 ちょっとした好奇心で聞いてみると、結衣はいきなりモジモジしだした。


「ま、まあ……色々……だよ」

「そ、そうか……」


 本当に何して遊んだんだ……。余計に謎が深まる反応だった。


「ま、まぁ取り敢えず夜ご飯にでもするか」

「そうだね」


 俺は気まずい空気になりかけていたので、話を変えた。そして今日は俺の番なのでキッチンへと向かった。


「ねえ、けいくん。聞きたいことがあるんだけど良いかな?」


 ご飯も食べ終わりお風呂にも出た後、結衣はそんなことを言ってきた。


「ああ、いいぞ」

「けいくんって私のこと嫌い……?」


 そんなことを顔を俯かせながら聞いてきた。


「はあ。そんなわけないだろ。まず嫌いだったら、一緒に同居なんてしてないし」

「それもそうだよね」

「なんでそんなことを聞くんだ?」

「え、えっと。ちょっと気になっただけだよー」

「そうか。でもそんな心配は要らないぞ。結衣の事を嫌いになることは絶対ないから」


 俺は結衣の頭を撫でてそう言った。


「あっ……。うん! ありがとうね」


 結衣はまだ何か悩んでいそうだったが、取り敢えずはこれで終わりの方がいいと思った。

 どっちにしたって結衣が話さないと分からないしな。それまで気長に待つよ。


「じゃあもう寝るか」

「うん! おやすみー」

「ああ、おやすみ」


 俺たちはそれぞれの寝室へと向かった。


***


「やっと終わったな。明日からゴールデンウィークだぜ」

「ああ、そうだな」


 有紗さんが俺たちの家に遊びにきてから数日が経ち、ゴールデンウィーク前最後の授業が終わった。


「じゃあ帰るか」

「だな。行くぞー結衣」


 俺は後ろにいる結衣に声をかけた。

 すると結衣から


「あ! ごめん。先に帰ってて」


 と返事が返ってきた。


「あ、うん。分かった。——じゃあ行こうか聡太」

「ああそうだな」


 結局二人で帰ることになってしまった。あの日以来なんだか結衣は付き合いが悪くなっている気がする。

 その事を聡太に話してみた。


「あー。そういえば有紗も最近付き合い悪いし、一緒に遊んでるんじゃね」

「心配じゃないのか?」

「何が?」

「その……浮気とか?」


 俺が例えを上げると聡太は笑い出した。


「それはねえよ。しかも俺そんな束縛男になりたくねえし」

「よく言い切れるな」

「まぁ、自分で言うのもなんだけど、有紗って俺にベタ惚れだから」


 聡太は何食わぬ顔でそんな事を口にした。


「そんな自信がどこから出てくるんだ?」

「だってあいつ俺の弁当毎日作ってくるんだぜ。それだけでわかるだろ」

「そういうものか……」


 弁当なら俺たちも作りあってるけど、やっぱり同居してるのとしてないのでは違うんだろうな。

 そんな事を思っていると聡太が一つ提案してきた。


「そんな気になるならデートにでも誘えよ」

「はあ! なんで唐突にそんな事を」

「それだったら二人きりにもなれるし、何か聞けるかもよ」

「うーん……。確かに一理あるかもしれない」


 聡太の提案を渋々呑んで結衣をデートに誘うことにした。


「な、なあ結衣」

「うん? どうかした?」


 二人でテレビを見ている時に俺は話を切り出した。


「ゴールデンウィークのいつでもいいからさ、二人で出かけないか?」

「え! いいけど。どうしたのいきなり? けいくんから誘ってくる時なんてほとんどなかったのに」

「い、いやー気まぐれだよ。そろそろ一ヶ月で生活も慣れてきただろうし」


 誤魔化し方が下手な気がするけど、多分大丈夫なはずだ。


「うん分かった。行こー。そういえば私、まだけいくんに何か選んであげるっていうの、やってないしね」

「ああ、そうだな。じゃあいつ行く?」

「うーん……。明日でいいんじゃないかな? 何か予定ある?」

「いや、大丈夫だ」じゃあ明日に行こうか」

「はーい」


 結構簡単に出かける予定が決まった。

 そういえば俺は何を心配していたのだろうか。別に結衣がどこで何をしててもそこまで関係ないはずなのに……。


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