第568話 人質の生活/ユキハ

ラドル枢軸連合の話は、囚われの身である私の元にも入ってきた。対エリシア帝国の為の組織ということだけど、その矛先がいつアムリア連邦に向けられるかわかったもじゃなない。ラネルはどうするつもりだろうか……。


「ユキハ王女、エリシア帝国とラドル枢軸連合の大きな戦いが北で始まります。ラドル枢軸連合に雇われたので、我々も移動することになりました」


フィストアさんは囚われの身である私に律儀のそう教えてくれる。

「どうして、そんなことを私に教えてくれるんですか? 私はただの人質ですよ」

「立場的には人質ではありますが、ただのではありませんよ。私の私見では貴方は大事なゲストであり、今後、新しい関係性を築きたいと考えている友人だとも思っています」

「新しい関係性とはどういう意味ですか」

「先の事は誰にも分からないということですよ、少なくとも私は貴方に好意を持っています」


まだ言葉の真意を理解したわけではないけど、なぜかその言い回しに胸がドキドキする。二面性のある得体のしれない人物に対して、私は何を考えているんだろうか、ましてや状況的には敵と言っても良い存在なのに……。


「それよりユキハ王女、貴方はライダーとしても優秀な人物だと聞いております。時間を持て余しているようですし、よろしければ、我々が開発したライダー育成プログラムを受けてみませんか?」


フィストアさんは意外な提案をしてきた。無双鉄騎団がアムリア連邦に提供している鍛錬プログラムは受けたことがあるけど、あれとは違うのだろうか。あの時でもひと月ほどでルーディア値は数倍にアップして驚いたけど……。


「育成プログラムとはどのようなものですか」

「ルーディア値が劇的に上昇する強化プログラムです。効果には個人差がありますが、私の見立て、ユキハ王女なら素晴らしい効果が期待できるでと思いますよ」


ルーディア値が上昇するのに興味がないわけではない。それに私が強くなれば、前のピンチの時のような状況でもみんなを守れる力になれるかも……。


「他にやることもありませんし、是非、その育成プログラムを受けさせてください」「わかりました、それではすぐに用意させます」


このように人質とは思えないほど自由が許されている私だけど、あの英雄と呼ばれる二人に会うことだけは許されなかった。もしかしたら余計な事を言われると都合が悪いのかもしれないと勘繰る。ちょっと話を振って探ってみた。


「そういえば、話は変わりますがあの英雄の二人はどうしているのですか」

「手厚く接待させて頂いています。ですが二人とも無欲なのか、あまり贅沢をしてくれないんですよね」

「そうですか、あの方々は旧文明時代の人なんですよね。伝承くらいでしか知りえない昔の文化など、一度お話を聞いてみたいものです」

「申し訳ない、それだけは許可できないのですよ」

「どうしてですか」

「それは彼らについている嘘が露呈する可能性があるからです。ユキハ王女は、彼らに伝わって欲しくない情報を沢山お持ちですから」


信じられないくらいにサラッと本音を打ち明けてくれた。あまりにストレートな言い回しに、好感すら持ってしまった。

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