第546話 紅の旅団/ユキハ

すぐにヒマリたちを助けてくれた部隊から接触があった。名乗り合うより先に、通信障害の起こるマルヌダークでも使える近距離用通信で礼を伝える。


「危ないところを助けて頂きありがとうございます」

「気にしないでいただきたい。搭乗しているのが民間人のようでしたので、こちらの判断で助力したまでです」

「こちらはアムリア連邦のアムリア王国の者です。差し支えなければ所属などを教えていただけますか」

「我々はただの傭兵団です。名を『真紅の機兵』と言います。ある依頼を受けて行動中でした。詳細は依頼主との守秘義務がありますのでお答えできません」


真紅の機兵……名の通り、魔導機のカラーリングが赤を主体としているのが特長のようだ。聞いたことはないけど、先ほどの戦闘結果を見ると、腕は一流とみられる。


「いきなりのお願いで失礼なのですが、今この場で、傭兵団として仕事を依頼することはできませんか」

咄嗟にそうお願いしていた。これほどの戦闘力のある集団であれば、追手を撃退することも可能だろう。

「先ほどの言いましたが我々は現在、別の依頼を遂行中ですので……」

「お願いします! 報酬でしたら、いくらでも……とは言えませんが、できる限りの事はさせていただきますので!」


この機会を逃せば、しつこい追手から解放されるチャンスを逃してしまう。私はすがるように必死にお願いした。


「そこまで言うのでしたら、わかりました。ただ、今遂行中の依頼はとても大事なものです。いかなる場合も、そちらを優先させていただくことを最初に言っておきますがそれでもよろしいですか?」

「もちろんです。無理なお願いですので、贅沢は言いません」

「わかりました。それでは依頼内容を教えてください」

「我々がアムリア連邦の安全圏まで行くまでの護衛をお願いします」

「なるほど、了解しました。しかし、こちらの依頼がまだ終わっていませんので、まだ移動することはできません。もしかしたらこちらの都合で一緒に移動してもらうことになると思いますがご了承ください」



安全と引き換えに、この地から動くことができなくなった。しかし、それでも生き残る希望が生まれたので文句は言えない。


一方、敵軍の動向だけど、別動隊も殲滅しさらにこちらに謎の部隊が合流したことで警戒を強めた。積極的に距離を縮めよとせずに、一定の距離を保ってこちらの様子を伺っている。だけど信じられないことに、それでも追跡を諦めることはなかった。どれだけ粘着質なのか呆れる果てる。


それに比べて、絶体絶命の状況を救ってくれた真紅の機兵のリーダーは紳士であった。具体的な依頼の詳細を詰める為に直接話をする機会を頂いたのだけど、まずはその容姿に圧倒されたる。長身で燃えるような赤い髪の青年で、歳は私と変わらないくらいだろうか、若い年齢とは思えないほど落ち着いた物腰で、優しい声に比例した天使のような顔立ちに妙な威圧感すら感じる。


「真紅の機兵、リーダーのフィストアと申します」


そう名乗りを上げてくれたが、どいう訳か私の耳にはあまり届かなかった。その代わりに心臓が妙に高鳴る。そして体の温度がどんどん上昇するのを感じていた。

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