第526話 極上の餌
集合地点に集まってくる勢力の移動がほぼほぼ完了した頃合い、敵意むき出しで動かなかった戦力が動き始めた。しかし、向かうのは集合地点ではなく、その逆の方向であった。
「あれはどういうつもりだろ?」
「戦術的には意味はないだろ、こちらを焦らすつもりで動きを見せているんだろうな。まあ、あんなのは放って置いて、ラネル、集まった奴らに次の演説をしてくれるか」
「わかりました。それが私の役目です、任せて下さい」
ラネルの演説は、アムリア連邦初代大統領に恥じぬものであった。混乱と暴力により連邦が崩壊しそうになっている今こそ、私の存在意義があると言い切り、連邦を元の姿に戻すと宣言した。
演説をきいた者たちは大いに盛り上がった。歴史の浅い国家ではあるけど、一つの集合体として、何かが生まれていたのは確かなようで、大統領への忠誠がある者も多く存在することがわかった。しかし、その中には偽りの忠誠心を持つ者も存在する。次はそれをあぶりだす番だ。
敵の本性をさらけださせるには魅力的な餌を使うのが一番だ。安全を確保したうえで、ラネルに極上の餌になってもらうことになった。集まった勢力の代表たちとの謁見はその餌場として機能する。
「本当に大丈夫かラフシャル」
ラネルが服の下に装着した防撃スーツの性能を心配して再確認する。ラフシャルは自信満々でこう説明する。
「渚のディアテナの防御システムでも使用している魔導技術を応用して作ったスーツだからね、剣で斬られようが矢で射られようが体に傷一つつかないよ」
「だとしても、ラネルを餌に使うなんて私は反対だよ、他に方法はないの?」
渚はラフシャルの技術を信頼するしない以前に作戦事態を反対している。そりゃ親友が今から殺されようとするのを気持ちよく賛成するような幼馴染は俺にはいない。
ラフシャルの言葉を疑うわけではないけど、やっぱり俺も不安だ。しかし、自分を餌にするラネル本人は、まったく動じる様子もなく、心配する俺たちにこう言う。
「大丈夫ですよ、渚、勇太さん。私は無双鉄騎団の技術を全面的に信頼していますし、この作戦は上手くいくと思います」
不安の表情が一つでもあれば、本人がそう言ったとしても止めていたと思う。だけど、ラネルからは一切、そんな感じはなかった。全面的に信頼してくれてるってこういうことなんだと実感した。俺は彼女を守ることをあらためて心に誓う。
「さて、そろそろ時間だ。いくら防撃スーツを着ているからって安心するなよ、護衛もしっかり頼むぞ」
ラネルを守るのはアリュナの指揮する護衛隊で、白兵戦では誰よりも頼りになるダルムとバルムの二人も加わってもらている。俺と渚は何か大きな動きがあった時の為に、魔導機で待機することになった。
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