第458話 切り札/ナナミ

為す術のない状況での防戦一方の中、ヴァジュラ改の説明をラフシャルから聞いた時の話を思い出していた。そして武器や装甲の説明の後に聞いた、緊急時に使用できる隠し能力の一つの話を思い出す──


英雄強化ヒロイックブースト?」

「そう、切り札とよべるヴァジュラの新能力だ。無双鉄騎団の機体には標準化していくつもりなのでヴァジュラにも実装させてもらった」

「切り札ってどんなの?」

「前にアルレオに実装していた無双モードを改良して汎用化したものなんだけど、一時的に全能力をあげるブースト機能なんだ。単純に戦闘力を爆上げするものだから、どんな状況でも役に立つはずだよ」

「へぇ~そうなんだ、そんな便利なのあるといっぱいつかっちゃいそうだな」

「いや、残念だけどそれはやめてくれ。ヒロイックブーストは強力だけど、機体やライダーに対する負担が大きいんだ。あくまでも切り札としてここぞという時のみに使うことを推奨するよ」

「なんだ、そうなんだ、せっかく楽できると思ったのに」


「そんなに甘くはないよ。それに今のナナミなら切り札を使わなくても、十分、無双できる力はあるんだから残念に思うこともないだろ」

「だけど、アリュナやブリュンヒルデとの模擬戦では負けてばっかりだよ。ナナミの方がルーディア値は高いのに全然勝てない」

「それは戦闘技術の違いだと思うよ。ナナミも十分上手く魔導機を操ってるけど、あの二人くらいのレベルにはまだ通用しないんだろうね」

「どうしたらいいの?」

「精進するしかないんじゃないかな。私見だけど、ナナミは無双鉄騎団で一番の伸びしろがあると思うよ」

「勇太より?」

「いや、あれは別格だから比べたらダメだな」


「そっか……ナナミはね、勇太を……ううん、みんなを守れるようになりたいんだ。どんな強敵がたくさん現れても戦える力が欲しい」

「永続的な力は日々の精進からしか生まれない。だけど、日々の精進で力をつける前に、強敵が現れた時などで使って欲しいのがヒロイックブーストだよ。未来の自分の力の前借り、それができる切り札なんだから」


──ラフシャルもナナミと同じように仲間のみんなを守りたいと思っているんだと思う。だからどんなピンチも切り抜ける為の力を与えてくれてたんだ。


今のナナミでは対応できないこの状況でも、未来のナナミの力なら……──


「緊急承認!! 英雄強化発動!!」


ラフシャルお得意の音声入力により切り札のヒロイックブーストを発動させた。コックピット内の機器が激しく反応して声に応える。


ヒロイックブーストは機体の性能だけではなく、コックピット内の仕掛けが発動してライダーの反応速度まで向上させる。モヤモヤとした感覚が訪れて、敵の動きがどんどん遅くなっていく。


敵機は冗談のようなゆっくりとした動きで攻撃してくる。それを避けて攻撃するのは容易だ。さっと避けてガイアラブリュスを軽く振って粉砕する。向こうはヴァジュラ改の動きにまったくついてこれない。作業のように一方的に敵機を倒していく。


ピンクの魔導機や飛行する魔導機の動きも完全に見切った。さっきまで為す術がなかったのが嘘のように対応できる。ピンクの魔導機の鎌を避けながら、不意に上空から攻撃してくる飛行魔導機の槍の攻撃を受け止める。右足でピンクの魔導機を蹴り飛ばし、シールドで飛行魔導機をぶん殴ってやった。

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