第436話 敵は敵の中

「嘘だろ……デアグラフル侯爵がエリシア帝国軍に保護されているなんて……」


おばさんの友人からの情報はとんでもないものだった。デアグラフル侯爵はルダワンどころか、軍事協力していた周辺国家も裏切り、エリシア帝国に取り入ってその傘下に加わっているというものであった。


それが本当なら仇がエリシア帝国に取られることはなくなったけど、もっと厄介な状況になったのは間違いない。


「デアグラフル侯爵はルダワン軍も参加した西方国家連合軍に大きな罠を仕掛けて、大打撃を与えたようです。今、連合軍は撤退中で、裏切り者のデアグラフル侯爵は自分の私兵とともにエリシア帝国軍に合流したということですね」


「だから国境にも軍がいなかったのか……みんな招集されてその戦いに参加してたんだ」

ファルマの言うように、この国にきてからルダワン軍の姿を見ることがなかった。だから、俺たちも戦闘することもなく自由に動き回れているのだろう。


「デアグラフル侯爵だけではなく、エリシア帝国とも戦うことになるなんて……やはり、貴方たちは何もせずこの国をでなさい。いくらなんでも相手が悪いわ」

「おばさん、大丈夫、私と勇太は何度かエリシア帝国とも戦っているのよ」


ファルマの言葉におばさんは心底驚く。あまりに突拍子のない話なので、いくら信頼している姪の言葉でも信じきれないようである。


「おばさん、撤退している連合軍がどこにいるかわかりますか?」

俺はある考えが浮かんでそう尋ねた。


「それを知ってどうするつもりなの?」

「俺たちは傭兵です。連合軍に雇ってもらえれば戦う理由もできるし、孤立した戦いにもならない。そうなればおばさんの心配事も少しは軽減されるんじゃないですか」


少し考えたおばさんはこう答えた。

「確かにそうね。止めても無駄なようだし、せめて連合軍と共に行動してくれる方が安心するかもしれません。わかりました、すぐに確認しますから待ちなさい」


撤退している連合軍がどこにいるかはすぐにわかった。ルダワンの北部にあるメバロルという国の山岳地帯を隠れながら撤退しているということだった。ファルマは知っている国のようで、前にカークスへいく途中で、模擬戦闘をした辺りだと言われたけどよく覚えていなかった。


おばさんに礼を言うと、俺とファルマはその場所へと向かうことにした。飛び立つガルーダとアルレオ弐をいつまでも見送っていた。



移動中に、こちらに向かっているナナミとエミナに状況を伝える。二人はファルマが無事だったことに喜んだが、その後の話には唖然としていた。


「またエリシア帝国と揉める気なの!?」

エミナが呆れたようにそう言うのですぐに反論する。


「いや、揉める気はないけど、結果的に戦うことになりそうだってことだよ」

「どう違うのよ……まあ、話を聞いてると仕方ない部分はありそうだけど、私とナナミがそっちに合流しても四人しかいないのよ。エリシアの西方方面軍はかなりの規模だって話だし、アリュナやジャンに連絡して援軍を送ってもらった方がいいんじゃない?」

「そうしたいけど、向こうは向こうでメルタリアで色々ありそうだし、そもそも今から援軍を送ってもらっても間に合わないと思う。誰か来た時にはこの辺りはみんなエリシア帝国に制圧されてる可能性だってあるぞ」

「う~ん……確かにそうね。だけど、連絡だけはしとかないと、ジャンやアリュナだけじゃなく向こうにはラフシャルだっているから、何か方法を考えてくれるかもしれないし」


「そうだな、一応こちらの行動を知らせておこう」


エリシア帝国と一戦交えるかもしれないとジャンに伝えると、やはりと言うかかなり怒られた。しかし、事情を話すとある程度の理解を示す。無理はするなと念を押されて、今回の行動を了承してくれた。

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