第425話 軍議/結衣
得体のしれないラーシア軍の全貌は把握されていなかった。しかし、これまでの戦いから推定される敵兵力は、少なくとも魔導機一万二千機、戦艦級ライドキャリア三百隻、兵員三十万人くらいの規模であることはわかっている。驚異的な大軍ではあるけど、それでもこちらの方が戦力は上である。
戦力的に優位であっても、戦況が絶対的優位であるとは限らない。ラーシア軍は地の利を生かして布陣していて、攻めるこちらの方が圧倒的に難しい。情報将校の並べた、敵の布陣を見て、新たに中央方面軍の参謀に就任したホロストイという宿老が頭を抱える。彼は中央方面軍の将となる私が戦略に疎いのを懸念してか、軍部が付けたお目付け役でもある。
「どの拠点も完璧な防御ですな。さらに拠点同士が連携されており、攻め落とすのには一苦労しそうですわい。これはアージェイン殿が苦戦していたのも頷けます」
「敵にはよほど優秀な軍師がいるようね。戦力はこちらが上でも、厳しい戦いになりそうだわ」
ロゼッタもホロストイと同意見のようで、敵の布陣を称賛する。
「それで、強敵ライダーがいる部隊はどこにいるのですか」
その場所こそ私の戦場となる。
「ラーシア側の最重要拠点である、マノニ要塞だ。各拠点をフォローできる位置にあって、ここを落とさないとどうしようもなくなり何度か攻めたのだが、全てこちらの被害甚大の結果で跳ねのけられてしまった場所だ」
マノニ要塞のある場所を見ると、敵の拠点群の中心にあり、素人目にもその重要度がわかる。
「あなたマノニ要塞を単独攻略しようとしたの? そりゃ何度も敗戦するわけよ。この敵の布陣は拠点同士が強力なつながりを持っていて、お互いの防御力を強化しあっているわ。その為に拠点を単独で攻略しようとすれば敵の術中にはまって被害が増えるだけ。防衛拠点群全体を大きな要塞としてみて攻略していかないと上手くいくわけがない」
ロゼッタは実践の指揮経験があるだけではなく、ちゃんと用兵術を学んでいるだけあって、合理的にアージェインの戦略のまずさを指摘する。アージェインはニトロルーディアで覚醒する前は、ただのエリートライダーにすぎなかった。小隊、中隊レベルの指揮経験はあったようだけど、いきなり軍団単位での指揮をすることになったのは無理があったようだ。
本人も戦略に不備があったことは理解しているようで、反論するわけでもなく、ただ頷いて聞いている。そもそもルーディア値が高いという理由で、いきなり大軍団の指揮をさせる国がおかしいのである。私だってそうだ。大規模方面軍の指揮など無理に決まっている。こういう方針を見ていると、皇帝は、いや、その裏にいるラフシャルは本当に戦争に勝とうとしているのか疑問に思ってしまう。
「とにかく、戦力で圧倒しているからと言って力押しで勝てる相手ではないのは間違いないじゃろう。まずは戦術的な攻略方法を考えて、作戦を実行するということでよろしいかな、結衣様」
私抜きで話を進める方が効率的だと思うけど、ホロストイはそう言って伺いをたてる。指揮官としての地位に敬意を示しているだけだろうけど、はっきり言って時間の無駄である。私の答えの選択肢はただ頷くだけの一択しかなかった。
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