第400話 医療棟

巨獣のイプシロンコアに使われていた人々を解放した。あの墓場で助けた女の子と違ってコアに組み込まれてから日が浅かったようで、全員、それほど深刻な状況ではなかった。順番にミライにある医療ポッドで治療しながら休息させる。


そして俺たちは、いよいよオヤジの蘇生を行う。蘇生をする為の、高度なアストラルメディカル設備のある医療棟に向かう。


「まだ、油断するんじゃねえぞ。デミウルゴスが罠を残している可能性もあるし、他にも何かいるかもしれねえ」


ジャンの言うように罠が残っている可能性はある。警戒しながら医療棟へと向かった。


医療棟は爆発物のあった実験棟から北東の場所にあった。フェリが記憶している地図から割り出したので迷うことは無かった。幸いなことに戦闘での被害もなく、設備は無事のようだ。


「よし、中にはいるぞ。剣聖さんと女の子の医療ポッドを運ぼう」


俺、ジャン、フェリの疑似体、そしてエミッツとミルティーで医療ポッドを運ぶ。渚と清音は何か出た時の為に警戒しながら俺たちの警護をする。リンネカルロは有事に備え、魔導機に乗って外で待機してもらった。


「こんな役ばかりですわね」


一人、魔導機で待機なのが納得いかないのかそう愚痴る。確かに今回のリンネカルロにはそういう役割が多いように思える。まあ、このメンバーの中では力もなく、白兵戦闘の能力が一番低いので必然とそう言う役割にになるのは仕方ないのかもしれない。


医療棟の中は不自然なくらいに静かだった。物音はもちろん、空気のながれすらないくらいに静寂に包まれている。フェリの話だと、棟全体が無菌管理、温度湿度管理されていて、さらに常に建物全体をスキャンしており、異物の侵入を防いで微量な変化も起こさないようにしているからだそうだ。


しかし、静かだった建物内が一変、けたたましくサイレンの音が響き始めた。どうやら医療棟を管理するAIが、建物に入った俺たちを不法侵入だと判断したようだ。この状況にフェリの疑似体は冷静に行動する。近くの電子端末に近づくと、何やら操作を始める。するとすぐにサイレンは停止した。


「管理プログラムにハッキングしてゲストユーザーとして私たちを登録しました。もうこれで医療棟内を自由に行動できます」


「仕事できる奴だな。ついでに目的の場所も調べてみたらどうだ」

「もう確認しました。メディカルルームは七階にあります。そこの先にエレベーターがありますのでそれでいきましょう」


フェリがあまりに仕事ができすぎるのでジャンも呆れるくらいに感心している。


ゲストユーザーとして迎え入れられているせいか、俺たちの行動を妨害するものは現れなかった。医療カプセル二つが余裕で載せることができる大型のエレベーターでスムーズに七階へと到着した。


「医療ポッドを二つとも部屋の中央に置いてください」

フェリはそう言いながら部屋に設置されている機器を調べ始めた。少し操作しただけで何かを確認できたのか頷きこういう。


「大丈夫みたいですね。設備は正常に動きそうです」

「よかった。設備が使えなかったらここまでの苦労が意味なくなる」


後は蘇生を実行するだけだ。フェリはもくもくと準備を進める。やってることが高度すぎて手伝うこともできないので、俺たちはただ待つだけだけだった。


「蘇生用に持ってきた素材を種別ごとにそこにいれてください」


そんな俺たちにフェリが仕事をくれた。言われたとおりに持ってきた素材を、いくつか並んでいる円形のボックスに入れていく。入れ終わると全ての準備が整ったようで、フェリは力強くこう言った。


「それでは蘇生を開始します」


いよいよオヤジの蘇生が始まる。必ず成功するものではないと聞いているので祈る気持ちでそれを見守った。

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