第385話 数の暴力

一体目の巨獣兵器を倒した。ちょっと慣れてきたからかもしれないが、上で戦った時より楽に勝てたように思える。


「ちょっ、ちょっとみんな! 周りを見て!」


渚が不意に声をあげる。言われたように周りを見てギョッとする。


「い、いつの間にこれほど……」


一体と戦闘中の間に、俺たちを取り囲むように巨獣兵器の繭が集まってきていた。しかも、その数は数えきれないほどに増殖していた。


繭の状態では移動はしないと勝手に思っていたけど、まさかこんなことになるなんて想像もしてなかった。


「気をつけろ! 白い糸を使って移動するみたいだぞ!」


ジャンが移動の瞬間を目撃したようでそう教えてくれる。どうやら攻撃に使っている白い糸を使い移動したようだ。


取り囲む数十体の繭から一斉に白い糸が放たれる。放たれた白い糸は数えきれないほどの量で、回避することができなかった。全員にニュルニュルと糸が絡みつく。


「くそっ! なんて数だよ」

「うっ、ウニョウニョと気持ち悪いですわね!」

「不覚です……このようなものに拘束されるとは……」

「やだっ! ちょっと放してよ!」


絡まった白い糸は、とんでもない力で容赦なく魔導機を締め上げる。ギリギリッと機体が悲鳴をあげる。ダメだ、さっさとこの白い糸をどうにかしないと、このままではやられてしまう。


「糸の材質を調べました。この繭の弱点は炎です! 高温の炎であれば糸を燃やすことができます!」


フェリがそう教えてくれる。しかし、炎と言っても燃えるものなんて近くにないぞ。こんな時に、炎の魔導撃を使うアリュナがいてくれれば……。


「フェリ! 燃えるものなんてないぞ!」

「燃やす素材は繭の白い糸です」

「あっそうか。でもどうやって着火するんだ!?」

「四元素砲の四元素の一つは火です。四元素砲を使えるアルレオ弐とヴィクトゥルフなら炎をまき散らすことが可能です」


なんと、四元素砲にそんな使い方があるとは……。

「よし! リンネカルロ! 聞いてたか!」

「聞いてましたわ! それで私はどうすればいいですの?」

「ヴィクトゥルフのフェリⅡに一元素放出の手順を送信しました。そちらの指示に従ってください」

「わかりましたわ!」


「よし、転がってでも、這いつくばってでもいいから、みんな集まれ!」

炎の放出は離れていては届かない可能性がある。なるべく密集しておこなった方が成功率は上がるだろう。


拘束されて締め上げられながらも、なんとか全員が近くへと密集した。そこで一元素放出を実行する。


アルレオ弐とヴィクトゥルフから炎が巻き上がる。攻撃手段としては威力はあまりないが、白い糸に着火するには十分だった。瞬く間に炎は周辺に広がる。


「よし! うまくいったぞ!」


俺にはそう思えたが、フェリは現実を伝えてくる。


「ダメです! 温度が足りません! このままでは燃え尽きる前に鎮火してしまいます」


「なっ! どうすればいいんだ!?」

「酸素濃度をあげれば、炎の温度が上昇します」

「酸素!?」


それを聞いていた清音がすぐに反応する。

「私に任せて下さい。菊一文字には風の魔導撃があります!」


菊一文字を中心に竜巻のような空気の動きが生まれる。燃えている炎を消すほどの勢いではなく、ゆるやかに酸素を送り込む。するとどんどん炎の勢いが増す。


竜巻に飲まれた炎は、上昇しながら大きく燃え上がり、巨獣兵器の繭の糸を消し炭に変えた。


今度こそうまくいった。俺たちを拘束していた白い糸も燃え尽き自由になる。

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