第371話 改装

水たまりの水を抜くことに成功したことで、ミライのルートを確保することができた。さっきまで浸水していた通路をゆっくりと移動していく。


「最下層まであとどれくらいなの?」

地下にある施設の移動に飽きたのか渚はフェリに聞く。

「単純な移動距離だけでいいますと半分以上は進んでいます。ですが、また遠回りをさせられる可能性もありますので、何とも言えないですね」


そう聞くと少し腹が立ってきた。その気持ちを愚痴として吐き出す。

「ここの住人もそんなチマチマした妨害しないで、正々堂々でてきて欲しいよな」


「正々堂々と戦うような人物ならあんな姑息なことしないだろうよ。こっから先も何か待ち構えていると思って間違いないだろうな」


ジャンの予想は当たるからな……しばらくは妨害が続くと思われる。


あからさまな妨害がない移動中は、見張り当番と待機当番以外は休息するようにしていた。しかし、エミッツとミルティーの部外者の二人は、なんとも居心地の悪い感じのようで、頻繁に手伝いを申し入れてくれた。


「何かお手伝いさせてもらえませんか」

「いや、そう言われても何もやることないんだよな。見張りの手伝いをしてくれているし、そんなに気を使わなくていいよ」

「しかし……何かしていないと落ち着きません。どんな雑用でもいいのでありませんか」


リュベル王国軍では暇とういう概念がなかったようだ。何か仕事与えてあげたいが、本当にやることがなかった。フェリは忙しそうにしているが、彼女の手伝いは特殊だから素人にできることはなさそうだし……まあ、ダメもとでフェリに確認する。


「フェリ、何か俺たちにも手伝える仕事はあるか?」


フェリは俺の問いに少し考えてからこう答えた。


「そうですね── シャワールームを改装して、もう少し広い浴室にしてはと思っているのですが、いかがでしょうか? シャワーだけでは疲れも取れませんし、私の計算では、疲労回復効果が60%以上向上すると予想がでています」


その提案にジャンや清音も賛成する。

「おっ、そりゃいいな。どうもシャワーは好きになれねえんだよな」

「お風呂ですか!? いいですね。改装するなら私も手伝います」


全員一でシャワールームの改装が決まった。改装も専門職の作業だけど、素人にも手伝える事は多い。エミッツとミルティーはフェリの指示に従ってよく動いてくれた。


シャワールームの仕切りと、隣の使っていなかった倉庫をぶち抜き、大きめのフロアーを作り出す。シャワーで使っていた部品を転用して洗い場を作ると、どこから調達したのかわからない木材で浴槽を作り始めた。


「器用なもんだな」

フェリは板状にした木材を器用に組み立てていた。浴槽にするくらいだか隙間があったらダメだと思うけど、その心配はなさそうだ。


広くした浴室が完成したころ、待機当番の交代の時間になった。それまで待機していたリンネカルロが俺を呼びに来る。


「バタバタ何してるかと思ったら、こんな良い物作っていましたのね」

出来あがった浴室を見てリンネカルロは嬉しそうにそう言う。そう言えばリンネカルロと最初に会ったのは健康ランドだったのを思い出す。もしかしたらこういう広いお風呂が好きなのかもしれない。


見張り当番だった渚もやってきて目を輝かしていた。渚もそう言えばお風呂好きだ。機嫌が良くなったのか普段そんなに仲のよくないはずのリンネカルロと、きゃぴきゃぴとした雑談を始めた。


当然のことのように一番風呂は女性陣に取られてしまった。まあ、丁度待機当番の時間なので仕方ない。ジャンはミライの操縦、見張りはエミッツが買って出てくれた。俺が待機しながら見張りするからいいと言ったのだが、女性と風呂に入るのは、どうも男性として生きているからか抵抗があるようだ。

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